思い出話
「あーあ。」
ガウンを羽織った側妃はドサッとソファに身を投げ出した。
私はちょっと情報の整理が追い付かない。
アリーが息子で二人が親で?
アリーの生母は父親の愛人だって言ってたよね?
側妃が愛人???
とりあえず目の前の側妃がアリーの生母らしい。
その菫色の瞳は確かにアリーと同じ色だ。
『友人の母親だって僕は構わないお!
愛さえあればどんな障害も乗り越えられるお!』
いや愛があるならね。
他の側妃の情夫は家庭を持ったりしてない。
混乱している私を見て側妃はクスっと笑って言った。
「悔しいから話しちゃいましょうか。
私あの人と浮気しちゃったの。」
浮気…だと?
『ミズキは浮気に厳しいお!』
サレ経験あるからね。
まあここはハーレムだから事情は違うんだろうけど。
「全部陛下が悪いのよ。」
と側妃は話し出した。
「最初の頃はあんな情熱的に求めてきたくせに」
ほう。最初は本当にハーレム作ろうとしてたのかな。
だがほどなく第四側妃の輿入れが有って王が変わったのだと言う。
「ほんとの恋をしちゃったのよ。」
ほほう!
「あの陛下がですか?」
「あの陛下がなのよ!」
あのオッサンがねえ。
『オッサンも初めからオッサンだったわけじゃないお。』
わかるけどオッサンの姿しか知らないからなあ。
「ほかの妃たちはどうか分からないけど
私の次の日は第四側妃なわけじゃない?
もうそわそわしちゃって気持ちがここに無いの丸わかりだったんだから。」
「それはお辛かったですね。」
『ハーレム主の風上にもおけんな。』全く。
「それで私もちょっと浮気でもしちゃおうかなって。」
おっとその思考は理解しかねるが。
『寂しかったの!』
ああ 浮気がバレた人よくそう言うよね。
「使用人に変装したりしてね。
警備も今よりは大分甘かったから結構自由に歩き回れたの。」
それでみつけたのが従兄さんてことか。
代償行動ってやつかな。
その時すでに妻子がいたそうだけど王に似た容姿の従兄さん。
「もうね、思いっきり哀れっぽく縋り付いて誘惑したのよ。
それなのに、その日のうちに奥さんにバレたらしくて
次会った時は床に手をついて謝ってきたの。
無かったことにして下さいって。
家族を失いたくないって。
悔しくて私側妃なんだけどって言ったら
自分から陛下に白状しに行ったのよ。」
それで情夫という位置づけになったということかな。
とは言え、従兄さんとの仲は深まることは無かったそう。
「あの人、もう奥さんを裏切りたくないとか言っちゃって」
側妃はつまらなさそうに唇を尖らせた。
私への誘惑を止めてから側妃は妖艶な美女の仮面を外したのか
子供のような言動を見せる。
そうして何年か経った頃
王が扉の向こうの彼を連れてきて情夫の交換を持ちかけてきたのだと言う。
「最初からほんの数年情夫って立場に置くだけのつもりだったみたい。」
さすがにお咎めなしってわけにいかないからかな。
従兄さんは王の母方の従兄で王家の血は引いていないけど
幼いころから親しくしていたらしい。
「もうどこで調べたのか私の好みにぴったりの子を連れてきてね。
それが余計悔しくて交換を拒否して賭けに持ち込んだの。」
と側妃が言うと、扉の向こうの男の感情が緩んだのが伝わってくる。
良かったね。好みぴったりだってさ。
「あの子はもともと王に忠誠を誓ってたわけでは無かったから
すんなり私を選んでくれたわ。」
それからはそれなりに王に忠誠を誓ったはずの男を連れて来て
賭けが続いたのだと言う。
はぁ、と側妃が肩に手を置いて首を伸ばした。
凝ってるのかな。
「ほぐしましょうか。
面白いお話聞かせて頂いていますし」
と側妃の後ろに回った。
「肩、凝ってますね。」
と言うと、側妃の頭の中にちらっと王の顔が浮かぶ。
「陛下と会うのは緊張しますか?」
「そうね。命を握られてるようなものだもの。」
「それでよく浮気なんかしましたね。」
「あのころは生国も力が有ったし
何より気持ちがもうどうしようもなかったの!
どんなことになっても気持ちを吐き出せるならいいって思ったのよ。
若かったしね。」
ふぅと溜息をつく。
「陛下だって私に少しは負い目もあるでしょう?」
そうだな。ハーレムの心得ぶっこいてた奴だしね。
「でももうちょっと我慢してたら今とは違ったのかしらとも思うわ。
第四側妃はすぐに亡くなっちゃったしね。」
「えっ、そうなんですか。」
「その時の陛下の落ち込みようもすごかったわよ。
本人は隠してるつもりなんだろうけど。」
もともと体の弱かったらしい第四側妃は妊娠中に命を落としたそうだ。
「ずっと忘れられないみたい。」
それ以降の側妃に全部情夫がいるところを見るとそうなんだろうな。
あ、もしかして
「第四側妃様って黒髪に淡い褐色の瞳の方ですか?」
「そうよ。知ってるの?」
膝枕の君かぁ。




