仕上げの一手
午後は私室で待機しているように言われていたので待っていると
王の侍従が呼びに来た。
「そろそろ仕上げだ。」
と言う王に付いてイニー妃の宮に行く。
「思考を読むのは嫌ですよ。」
と王に囁く。
「まあ付き合え」
と王は笑った。
イニー妃の宮は前とは大分雰囲気が違っていた。
前にはほとんど居なかった女性の姿がある。
初老の執事も姿を消していて、今その仕事はアリーに任されてるらしい。
雑用の双子ももうじき解任予定だと言う。
お相手はアリーに決定したってことだな。
あとは二人の関係を認める代わりに制約魔法をかけるって流れに持っていくらしい。
イニー妃と目が合って会釈をする。
勝手に話しかけるのはマナー違反らしい。
イニー妃の胸元にはアリーが贈ると言っていた菫色の石のペンダントが揺れている。
その感情にもアリーへの好意がありありと見える。
『覗かないんじゃなかったお?』
思考までは覗かないもん。
テーブルに相対して着く二人。
イニー妃の後ろにはアリーが、王の後ろには王の侍従とちょっとずれて私が立つ。
図らずも全員の表情が覗える位置だ。
ひとしきり当たり障りのない会話をした後で
ふとイニー妃に舐めまわすような視線を送った王が言った。
「教育はほぼ終わったと聞いた。」
イニー妃の感情にさっと影が差す。
「はい。ですが」
続けようとするイニー妃の言葉を遮って王が言う。
「今夜、いいか?」
ピシッとイニー妃の周りの空気が凍り付いたようだ。
「今日はその、女性の障りが」
小さく震える手でカップを置き、弱弱しく応えるイニー妃に王は何事も無いように言う。
「構わない。どうせ寝所を汚すんだ。」
ひえぇっ
なんて発言!
『さすがの僕もドン引きだお。』
仕上げって嫌われたいってこと?
《嫌!》
イニー妃の強い感情が流れ込んでくる。
《嫌!》
無意識か、胸元に握った手の中には菫色の石。
《助けて!アリー!》
「陛下、今夜は予定がございます。」
侍従が落ち着いた声で告げるとイニー妃のペンダントを握る手が緩んだ。
「そうか。
ではまた次の機会に」
と言って王が席を立つ。
王の退出を見送るアリーに囁いた。
「助けてアリー、だってさ。」
イニー妃の気持ちをアリーに告げる気はなかったんだけど
どうか早く安心させて上げて欲しい。
それほどイニー妃の心の叫びは悲痛だった。
本城に戻る渡り廊下を歩きながら王に言う。
「下衆な演技が堂に入ってますね。」
あの舐めまわすような視線と、
いくら嫌われたいとしてもあのセリフは無いわ。
『本気でお味見する気かもしれないお!』
「あれで気持ちがはっきりするだろう。」
と王が言う。
それはそうかもしれないけれど。
「本気で味見とか考えて無いですよね?」
一応確認する。
「考えてるわけないだろう。
俺を何だと思ってる。」
『好色王だと思ってるお!』
「でもあれだけ嫌悪感を煽ったら、あとあと良好な関係が築けないのでは?」
と言うと
「そんなに酷かったか?」
と王が聞く。
「ええもうあのオッサンと寝るくらいなら死ぬわってレベルです。」
「そんなにか?」
心なしかしょんぼりと王が言った。
「不敬ですよ。」
笑いをかみ殺したような声で侍従が言う。
「陛下は女性に好かれる術を熟知してらっしゃるので逆もまた然りなのです。」




