王女-2
「名前で呼ぶのですね。」
と言うと、王は驚いた顔をして言う。
「お前、女が名前を忘れられた時の恐ろしさを知らんのか?
まあ、呼び間違えるよりは数段ましだが。
あと女の勘違いを正すのはよくよく慎重にしないとダメだぞ。」
さっきの蹴りか。
『さすがハーレム王だお!』
「いえ王太子が決まるまで名前は秘密と聞いていたので」
「ああ、それか。
王女が王太子になることは無いからな。
名前を秘匿することもない。」
王太子は能力の発現者が最優先で、
発現者が現れないときは王が指名することになるが
能力発現の可能性が最も高い者を選ぶということだ。
建国以来、女性の発現者が現れたことは無いと言う。
「だが王女の産んだ子に能力が発現した例はある。
つまりあの子も檻の中ということさ。」
「外遊から戻ったとおっしゃっていましたが」
「外遊に行かせるのは本人の強い希望があってな。
アネッサは子供の頃から活発で優秀だった。
本人もだが側近も手練れ揃いだ。
それでももし」
「もし?」
「敵国の手に落ちるようなことがあれば
王家の血を漏出させないための手段もすでに渡してある。」
それは死ぬと言うことかな。
『死ねと言うことなのでは。』
また重い話を聞いてしまった。
「同情したか?」
押し黙った私を覗き込んだ王が言う。
「いえ、私が同情など烏滸がましいことです。」
「弁えているじゃないか。」
王はドサッとソファに背を預けた。
「だが父親としては国の中で好いた男でも見つけて平穏に暮らして欲しいと思う。」
そしてまた私を覗き込む。
「どうだ?」
「?」何がどう?
首をかしげる私を見て、王はヤレヤレと言うように首を振ると部屋を出て行った。
進む廊下の先で王を待っていた王女と合流する。
「脈無しですわ。お父様。」
「ああ、あれは未だ子供だな。
アネッサの魅力に気付かんとは。」
「お役に立てず申し訳ありません。」
「いや。気に病むほどのことではないぞ。
あわよくば程度の話だ。」
王の手が王女の肩を抱く。
「お前の気持ちはどうなんだ?」
と言う王の質問に王女は目を伏せた。
「私はそういう気持ちはわかりませんから。
国にとって利益のある方を選んでいただければと思います。」
王はその言葉が真実で無いことを咎めることはしなかった。




