王女
執務室の王に帰城の報告だけ済ませる。
王は王子の胸の靄が無くなったのを視たのだろう、
詳しい報告は翌日以降と言われ、私室に戻った。
公には王子は軽い療養に行っていたことになっているらしい。
早めに夕食を済ませ、部屋で寛いでいると扉が叩かれ王が入って来た。
「お前の膝枕が恋しくてな。」
と言う。
「なんならしっかりほぐしてくれてもいいぞ。」
長旅から帰ったばかりの人間にマッサージをねだるとは鬼ですか。
よほどマッサージが気に入ったらしく、執務もそこそこにここに来たという。
まあ正直そんなに疲れてはいない。
それほど働いてないのと
ラリアさんの神聖力のおかげかもしれないな。
ただで旅行に連れて行ってもらったようなものだし
軽く肩くらいはほぐしてやるか。
と、扉が叩かれて女性の声がする。
王が「入れ」と言うと扉が開いた。
私の部屋なんだけど。
入って来たのは第七王子に姉と紹介されたことのある王女だった。
「陛下 只今戻りました。」
淑女の礼をとる王女に
「ミズキは家族みたいなものだ。かしこまらなくていいぞ。」
と王が言って促すと
「はい。お父様」
微笑んだ王女は私の向かいのソファに腰かけた。
「報告はあとで聞くとして、ここに来たのは理由があるのか?」
と言う王の質問に
「ミズキ様にお礼が言いたくて」
と王女が答えた。
「お礼を言われるようなことは」
と言いかけると王女は胸元のペンダントに触れる。
あ、第七王子に返した防御魔法陣のペンダントだ。
「こんな素晴らしいものをありがとうございます。
予定があったのですぐにお礼に来れなくてごめんなさい。」
「えっ」
いえそれは王子殿下に、と言おうとすると王の足が脛を蹴る。
王女は外遊の帰り襲撃が有ったこと、
襲撃は撃退できたが、体制を立て直す前に魔獣の群れと出くわして危険な状態に陥ったことを話した。
「魔力も使い果たし防御魔法の効果も切れて、さすがの私ももうだめかと思ったとき、
このペンダントが私を救ってくれたのです。」
「さすがのアネッサでも危なかったか。
外交は他に任せて国内で大人しくしていていいんだぞ。」
王が揶揄うように言うと
「いいえ。私、世界を見て回りたいんですの。
そこで命を落とすようなことが有っても悔いはありませんわ。」
王女は胸を張って答えた。
「でもペンダントが繰り出した盾を見たとき、ミズキ様の背に庇われているようで、
不覚にもときめいてしまいました。」
「ミズキはアネッサの恩人だな。」
「ええ!ミズキ様、本当にありがとうございました。」
王女は立ち上がると私の隣に座り直し、私の手を取って感謝を述べた。
「どうぞ私のことはアネッサとお呼びください。」
そうしてしばらく私を見つめた後、王に目を移すと
「ではお父様、また明日ご報告に伺います。」
立ち上がって王に礼をとってから部屋を後にした。
王女は、最初に会ったときの大人しそうな印象と違って
その言動から快活で明るい性格が覗えた。
王もずいぶん可愛がっているように見える。




