出立
日付が変わったころ宿を出る。
宿の近くに見張りは居たがこちらについてくる気配はない。
良い感じだ。
検問所の手前の広場で、時計の付いた街灯の横にマクシムが声を掛ける。
「そこにいますね?」
「はい。」
と返事がしたかと思うとローブを着た元聖女さんが現れた。
認識阻害の魔法は存在を認識した相手にだけ魔法が解ける。
私たちには元聖女さんがはっきり見えるようになったが、認識していない人には気付かれないそうだ。
「えっと」
と私を見て元聖女さんが首を傾げる。
「あ、ミヤは」
と言いかけたところで元聖女さんはにっこりと微笑んだ。
「わかります。あなたミヤさんですね。」
えっわかるの?
『元聖女すげぇ!』
検問所に行くと
「こんな夜中に出立かい」
眠そうな顔をした門番が訝し気に私たちを見た。
「悪いね。用事が出来たんだ。
これで眠気覚ましでもしてくれ。」
マクシムが門番にいくらかのお金を渡すと
門番は書類に男3と書きつけて門を開けた。
入国時には荷物検査とか細かかったけれど
出国時の手続きはずいぶん簡単なんだな。
門の外には手筈通り馬車が待機していた。
元聖女さんの存在を騎士には明かさないまま馬車に乗り込むと
そのまま滑るように馬車は走り出した。
道の両端には等間隔で明かりが灯り幻想的だ。
「わあ」
と元聖女さんが声を漏らす。
「夜の森って危なくないんですか?魔獣とか」
ちょっと心配になって聞くと
「神聖国の周りの森には魔獣はほとんどいないんだ。
腐っても聖なる地ってとこかな。」
皮肉っぽくマクシムが言った。
「まあ他国側の国境近くには多少いるけどね。
うちの国境近くには魔獣除けの結界が張ってあるから安心していいよ。」
と王子が言う。
そして元聖女さんに顔を向けた。
「一応自己紹介をしておこうか。
僕はソーン。
このマクシム様にお世話になってるんだ。」
あ、元聖女さんにはあの設定を通すんだ。
「いえ、お世話だなんて。
父君に戴いた大恩を忘れたことはございません。」
マクシムが仰々しく頭を下げた。
「私はミズキと言います。」
それぞれが名乗ってから元聖女さんを見る。
「私はラリアって呼んでもらえると嬉しいです。
聖女になる時にフローラリアって名前をつけられたんですが
長いしもう聖女じゃないので。」
「その前はなんて呼ばれていたんですか?」
と聞くと、元聖女さんはちょっと悲しそうに微笑んだ。
「もう忘れてしまいました。」
孤児だったと言っていたけれどあんまりいい思い出は無いのかもしれないな。
「男ばかりで気がつかないこともあるだろうから
何でも遠慮なく言ってくださいね。」
とマクシムが笑顔を見せる。
「そう、男ばかりですがみんな紳士ですから安心してくださいね。」
とフォローする。
考えたら不安になっても不思議じゃない状況だ。
「大丈夫です。皆さんがいい人なのはわかりますから。」
とラリアさんは笑顔を見せた。
『いい人でも下半身は別人かも知れないお!』
そうそう女の子は自衛が大切。
空が白み始める頃、森を抜け国境の門を超えた。
「一安心かな。」
と言うマクシムの声を聞いたら少し気が緩んで
そのまま眠りに落ちてしまったらしい。




