演技
それからは宿に戻り偽装工作。
一人部屋に入り窓を開け、滞在をアピールする。
神官服の男たちが窓の近くに来たのを確認したかのように部屋がノックされ
マクシムが入って来た。
「今夜にはここを立つ予定だよ。
準備をしてくれ。」
やや棒演技でマクシムが言う。
「おや、顔色が悪いな。」
「はい。申し訳ありません。
ちょっと体がだるくて。」
えふっと軽く咳をする。
『見よ!《演技力+》の力!』
「おや、熱もあるんじゃないか?
うつるような病気をもらってきていないだろうな?」
マクシムの演技も自然になってきた。
「大丈夫です。」
いいながらケホケホっと咳をする。
マクシムが大げさに声を張り上げる。
「おいおい勘弁してくれよ?
大事な仕事が有るんだ!
うつされたらかなわない!」
何歩か部屋を歩き回ってから怒鳴るように言う。
「まったく面倒ごとをいくつ引き起こしたら気が済むんだ!
お前はここで何日か休んでおけ!
治るまでここから出るんじゃない!わかったな!」
「はい。申し訳ありません」
バタンと大きな音をたててマクシムが出て行ったあとで、
ため息と咳を何度か繰り返してから窓を閉めカーテンを閉じた。
どうよ、この茶番。
『聖女って病気になるんだお?』
さあ?
これで夜になったらミズキに戻って宿を出る計画だ。
頃合いを見てこっそりと三人部屋に戻ると二人がテーブルに食事を並べていた。
「結局昼は食べそびれたからね。
ちょっと早いけど夕食にして仮眠を取ろう。」
と王子が言う。
普通の料理とミヤの部屋に持って行くと言って用意して貰ったという日持ちのする固いパンもあった。
「食事がすんだら転移魔法を試してみますか。」
とマクシムが言う。
「脱出計画的に男に戻って貰わないと。」
失敗できないんだな。なんか緊張してきた。
「戻れなかったら計画を変えればいいさ。」
王子がじっと私を見た。
「男に戻れなくても大丈夫。僕がミズキを守るよ。」
『ドキッ』
王子が私の手を取る。
わあ、ほんとにドキドキする。
その手をマクシムが剥がした。
「まあ転移してみましょう。」
マクシムと向かい合って手を繋ぐ。
「部屋の端に移動します。
さあ、自分の姿をしっかりイメージして。」
とにかくこの国を無事に出るのが最優先だ。
おとこのすがたおとこのすがた…
「成功だ!」
マクシムの声に目を開けると目線の先にマクシムの笑顔が有った。
その向こうにちょっと残念そうな王子の姿が見える。
『すん』
先ほどのときめきはきれいさっぱり消え失せていた。
ミヤの部屋に大きな水差しと固いパンを運ぶ。
宿の従業員の女性が廊下の向こうから歩いてきたと思ったら私を見て踵を返した。
ちいさく「ひっ」とかも聞こえた気がする。
女性に避けられるのも久しぶりだ。
私の称号は今どうなっているんだろう。
後ろからついてきた王子がクスっと笑った。
部屋に多少使用感を持たせてメモも置いた。
パンも少々ポケットの中へ。
最低でも明日までは見張りをごまかせるよう祈ろう、と王子が呟いた。




