説得
「あとは元聖女さんだね。」
と王子が口にした。
「ですね。
ミズキが純潔でなくても力があると示したことで累が及ぶかもしれない。」
ああ、そこまでは考えて無かったな。
元聖女さんが神殿に連れ戻されたらどうしよう。私のせいだ。
「とにかく説得してみましょう。
一緒に連れて行くのが最善かと。」
「だね。ローブを着て貰うことにはなるけど。」
「密出国ですか?」
「うん。僕らが連れて行ったことはいずれわかるだろうけど証拠は残さない方がいい。」
なんか大事になってきたような。
でもマクシムと王子が元聖女さんのことを考えてくれて良かった。
優しいんだな。
「あれだけ強力な聖属性の魔力持ちを放ってはおけないからね。」
「ですね。あれが神殿に食いつぶされるなんて人類の損失ですよ。」
あれ?優しいんだよね?
「男性ばかりで説得するよりは女性がいた方が安心するでしょうし、いいタイミングだったかもしれませんね。」
とマクシムが言う。
なんか騙して連れ去ろうとしてるみたい。
「じゃ、元聖女さんのところに行こうか。」
時刻は昼を少し過ぎたところだ。
元聖女の働く店は昼は食堂として開いているという話だった。
しかし訪れた店には物々しい雰囲気が漂っていた。
いかにも慌てて店を閉めたように準備中の看板が店の前に放り出されている。
開いた窓からは倒れた椅子が何脚か見える。
「あ、あんたたち!」
マクシムと王子に気づいた女将さんが店の中から手招きする。
まさかもう神殿が?と思ったものの、店の中に元聖女さんの姿も見えた。
「あんたたち魔法使いだろ?
怪我の治療はできるかい?」
と女将さんが聞く。
客同士の喧嘩を仲裁しようとした店主が怪我を負ったとのことだった。
「ひとりが厨房にまで入り込んでナイフを持ち出しやがったのさ。」
太ももから血を流した店主が言う。
足の付け根をきつく縛り上げているようだが出血が多い。
その店主より顔色を悪くした元聖女さんが店の隅で泣き出しそうな顔をしている。
聖女を務めた身でありながら何もできないもどかしさに打ち震えているようだ。
「ミヤ、治癒魔法を」
とマクシムに言われ傷に手をかざす。
思ったより傷が深い。
「ちょっと掛かりそうです。」
と言えばマクシムは元聖女さんに向かって言った。
「あなたの力も貸してもらえませんか?」
「でもっわたしにはっ」
と叫ぶように言う元聖女さんの手を取ったマクシムはその手を私の背中に当て
自分の手をそこに重ねた。
「私の魔力がわかりますか?」
「は、はい」
「そうしたらそこにあなたの神聖力を重ねるようにして」
マクシムの誘導で元聖女さんの力が流れ込んできた。
ドン、と物理ではない衝撃を背中に感じる。
女神の祝福に包まれた時と同じような波長のエネルギーが体中にあふれて
店主の傷はみるみる塞がれていった。
『元聖女のポテンシャルすごいお!』
店主夫婦と元聖女さんだけ別室に来てもらう。
神殿での出来事を伝え、純潔が聖女の条件から外れるかもしれないことを話した。
「私たちは明日未明にこの国をでます。
あなたも一緒に来ませんか?」
とマクシムが元聖女を誘う。
「魔法学校で教われば、私も魔法が使えるようになりますか?」
小さいけれどしっかりした声で元聖女さんは聞いた。
「ええもちろん。私が保証します。」
にっこり微笑んだマクシムに私は多少の胡散臭さを感じたけれど
元聖女さんは心を決めたようだ。
認識阻害のローブを渡し、待ち合わせの時間と場所を告げて店を後にする。
『元聖女ゲットだぜ!』
うん。そんな雰囲気を二人から感じるな。
「ミズキも感じたかい?
すごく純粋で強力な聖属性の魔力だった。」
弾んだ声でマクシムが言う。
「はい。女神の祝福と同じようなエネルギーでしたね。」
「なるほど。君も店主も光に包まれたように見えたのは目の錯覚じゃなかったんだね。」
と王子が呟く。
「僕たちは多大な損失をこの国に与えることになるかもしれないな。」
「目先の利益にとらわれ、本当に価値あるものに気づけない愚か者に情けは無用ですよ。」
二人は顔を見合わせてフフフと笑った。
店主はペンダントを御揃い?とからかわれたので着けていませんでした。(言い訳)




