第七王子
午後からの2番の授業を終えたところで夕食まで時間が空いたので剣術部を覗いてみる。
『おとこくさいお…。女子いないお…。』
「入部希望か?大歓迎だ!」
体も声も大きい赤毛の男性が話しかけてくる。
「顧問のグリッドだ!よろしくな!」握手に応じると痛いほどの力だ。
顧問と言っても日本の学校の部活動の顧問と違って、学校で雇われている剣術専門の先生と言うことだった。
もともと私は体を動かすのが好きだ。
それからは座学・座学・剣術が日課になった。
「上達が早いな」顧問が呟く。
『技術習得+の加護だお。』ああ、そんな加護も貰っていたのか。
ズルしているようで少々気が引けるが自分でも上達が実感できるのは楽しい。
魔法実技の授業も受けられるようになって多少戦闘も出来るようになったので冒険者としての依頼も受けたりして忙しい日々を過ごす。
『おかしい』ん?
『女の子が話しかけてこないお』そう言えば全然縁が無いな。
冒険者してる時には話しかけてくる女子もいるけど学校ではさっぱりだ。
まあ出自も分からない得体の知れない男だからねえ。男は顔だけじゃないってことかな。
そういえば最近アリーともあまり合わないな。
食堂でひとり食事をしていると隣の椅子に手が掛かる。
「隣、いいか?」『なんだ男かと思ったら!』
声の主を見上げる。『王子キター!』
「君と話してみたかったんだ」
慌てて立ち上がろうとするのを制止される。
「そのままで。ここでは平等だ。かしこまらなくていい。」
隣に王子が座り、侍従なのか護衛なのかいつも王子と一緒にいる男が食事を運んでくる。
「魔法も剣術もすごい上達を見せているそうじゃないか」
「いえまだまだです。」
剣術の基礎はもう教えることは無いと言われているけれど、魔法はまだ初級クラスだ。
「将来の希望とかはあるのか?」
「ここを卒業する時に仕事を紹介されると聞きましたが」
「まあ国の管理下で働くことにはなるけれど多少の選択の自由はあるさ。
君自身にやりたいこととかはあるのかい?」
考えて無かったな。この世界にきて毎日のことで手いっぱいで、まあ魔法とか剣術とか楽しかったし。
「冒険者として依頼を受けているのはお金のためかい?」
そこまで知られているのか。
「良かったら僕の側近候補として働いてみないか?」
突然の提案に驚く。
「いえ私は一介の平民でありまだこちらで勉強も始めたばかりのなんの力もない…」
しどろもどろになりながら断りの言い訳を並べていると王子はクスリと笑って
「とにかく一度城まで来てよ。迎えをやるから」という。
「いえお城なんてとんでもない。服装すら整いません」
「僕の私室に案内するからかしこまらなくていい。
僕もこっそり城下に行く時は君と大差ない服装をするしね」
結局押し切られ、後日登城することになってしまった。
王子も食事を始める。さすがに優雅だなあ。
「あ、そうだ」王子が食事の手を止めた。
「君には恋人がいるって話だったけど」
『なん…だと』
「私は記憶を無くしているのですが」
「うん。恋人のことだけ覚えているなんてロマンチックだね」
『アリーの仕業だお』多分そうだろうね。
でも否定すべきか迷うなあ。
『それで女子たちが寄ってこないんだお』
とりあえず就職するまでは彼女とか言ってられないし、このまま恋人がいることにしておこうかな。