聖女
「死ぬかと思ったよ。」
「殺されるかと、ですね。」
宿を見つけ、フロントで部屋の準備ができるまで待たされている間に愚痴が零れる。
「神官も横柄な態度でしたし、あんなので祈祷の効果なんてあるんでしょうか。」
「お客様方、祈祷を受けにいらっしゃったので?」
宿の主人が話に加わって来た。
「ええ、でも効果が無いどころか余計具合が悪くなりそうでしたよ。」
とマクシムが苦々し気に言うと
「今は聖女様がご不在ですからねえ。」
と主人が言う。
神聖国の神官は男性のみだが、稀に現れる神聖力の高い女性を聖女として神殿に迎えるのだと言う。
聖女は普通の神官に出来ない奇跡を起こす存在なのだそうだ。
だがその力は徐々に失われていくもので、次代の聖女が現れたら引退するのだそう。
「それが不在とは?」とマクシムが聞くと主人は声を潜めた。
「先代が力を無くし放逐された後、次の聖女と目されていた方が姿をくらましたのです。」
「放逐?」
「神殿で働ける女性は聖女様だけですからね。」
「だからって放逐とは」
「今までの聖女様は引退と同時に神殿の紹介でそれなりの家に嫁いでいったのですが
先代の聖女様は次代が見つかるのに時間がかかってしまいまして婚期を逃してしまわれたのです。」
先代の聖女様が少し先の酒場で働いていますよ、と教わり、そこに行ってみることになった。
賑やかな酒場のテーブルについて周りを窺う。
女性の給仕は何人かいるが一人、まるで光を纏っているような女性が居た。
「僕らにしか見えていないんだろうけど」
と王子が言う。
「はい。力を無くしたと言ってたけどとてもそうは見えませんね。
強力な聖属性の魔力が溢れ出ている。」
マクシムは魔力と感じるんだな。
私たちの視線に気づいた女性がやってきた。
「注文決まりましたか?」
マクシムが適当に注文したあと、女性はふと私の胸元を見た。
「そのペンダント…」
「ああ、ひとつ差し上げましょうか?」
とカバンからいくつか取り出すと女性は言った。
「ううん、お客さんが今着けてるそれが気になって」
あれ、なんかデジャブ。
「よお」
といきなり背後から肩を掴まれて、女性がひゃっ、と悲鳴を上げた。
かなり出来上がっているらしい赤ら顔の男が女性に言う。
「あんただろ?神殿から出されてすぐに淫奔に耽った淫乱聖女って」
『淫乱聖女!』
「いえわたしはっ」
と言う女性の言葉を遮って
「俺の相手も頼めねえかなあ」
男が女性を抱き込もうとする。
とりあえず男を女性から剥がそうとすると暴れ出した。
「商売女を買ってやるって言ってるんだ!」
と騒ぎ出す。
いかつい大男がやってきて男の襟首を後ろから掴んで放り投げた。
「うちはそういう店じゃねえんだ!出てけ!」
「食事代はちゃんと置いてきなよ!」
奥から中年の女性が出てきて男から食事の代金を毟る様に受け取ったあとその背中を押して店から追い出した。
「すまんね。お客さんたち」
この大男がこの店の主人だという。
「あれ、服が破れちまってるよ!」
その妻だという中年の女性が私を見て言った。
もみ合ったときに何かに引っ掛けたのか私のシャツに鍵裂きができていた。
繕うくらいするからと別室に案内されてシャツを着替えさせられる。
「料理もこっちに運ぶよ。
あんたはそれ頼んだよ。」
はい、と答えた元聖女は部屋の隅の椅子に腰かけてチクチクとシャツを繕い始めた。




