祈祷
翌日 いよいよ国境を越え神聖国を囲む森林に差し掛かった。
この森林はどこの国でもない共有地として位置付けられている。
それぞれの国から神聖国に続く道は神聖国の許可を得て各国が整備している。
許可の条件は森林の生物の行き来を妨げないこと。
そして強国はその力を誇示するようにその道の整備を行うらしい。
まるで大理石の床のように平らな石を敷いた広い道はこの国の国力が大きい事を表しているように見える。
「それでも神聖国での我々の立場は強くない。
もし神聖国で我が国を精霊王国と呼ぶものがいたら
それには侮蔑の意味が込められていると思っていい。
でも、なんら恥じることは無いと言う陛下のお考えで
我々は自ら精霊王国と名乗ることにしているんだ。」
と王子が言った。
「精霊は神々に劣る存在と思われているってことですか?」
「劣ると言うか邪神扱いかな。
魔法も邪悪なものと見るものもいるようだよ。」
へぇ。なかなか難儀な滞在になりそうだ。
神聖国の検問所の前で騎士二人と馬車は引き返すと言う。
神聖国には個人の武器持ち込みは禁止され、神聖国内での争いは所属国を巻き込んだ処罰の対象になるそうだ。
「一応大陸一安全な国と言っていい。
だから大人数の護衛は不自然なんだ。」
持ち物を検査され入国料を支払って、その足で浄化の女神の神殿へと向かう。
受付で祈祷料を支払って待たされることしばし。
奥から現れた神官はおっくうそうに私たちを一瞥した後、祈祷申込書に記載した国名を見て眉を顰めた。
「さすが精霊王国の方は神への信心が薄いと見える。
こんな時間に祈祷とは」
受付時間内だったし、受付の人に確認も取ったけど。
マクシムがにっこり笑って布袋を差し出した。
「申し訳ありません。寄付はこちらでよろしかったでしょうか。」
布袋の重さに笑顔になった神官に案内され入った部屋には
中央に壺を持った女神の像が有り、壺から流れ出る水が注ぎこむ浴槽みたいなのがあった。
手術衣みたいなのに着替えさせられた王子が水に入り
女神像に向かって跪く姿勢を取らされたところで祈祷が始まる。
特に呪文ぽくもなくそれらしい言い回しでもない祈祷は
悪いものを取り除いてくださいと女神に願う言葉を繰り返すだけだ。
王子の胸の奥の靄は一向に消えない。
そのうちに水に浸かって冷えたせいか王子の咳が止まらなくなった。
旅の間は夜寝付く前に少し咳込む程度だったのに。
「今日のところはもう」
見かねたマクシムが止めに入ってようやく王子が水から上がって来た。
朝の清浄な空気が必要とかこんな時間に来るからとかグズグズ言い訳を述べる神官に気付かれないように王子に回復魔法を掛ける。
「ではまた明日早い時間に参ります。」
深くお辞儀をしたマクシムが神官に気付かれないように舌打ちをした。




