吟遊詩人
それからの旅路は魔獣に出くわすこともなく順調に進んだ。
国境に近い、小さいけれど活気のある街で何日目かの宿を取る。
日暮れにはまだ間があるので街を見て回っていると
広場の噴水の前に人だかりがある。
派手な色合いの服を着て、ぽってりしたギターみたいな楽器を演奏しながら歌っている男がいる。
これが吟遊詩人ていうのかな?
王都では見たことが無かったな。
見物している若い女性たちはうっとりとその男を見つめている。
どの世界でもミュージシャンはモテるんだな。
この吟遊詩人は容姿もなかなか美しい。
『解せぬ』
何が?
『ポエマーは嫌われるのに吟遊詩人はなんでモテるんだお?』
うーん。メロディに乗せるから?声がいいから?
後は内容かな。
吟遊詩人の歌は物語だ。
対して脳内ポエマーはナルシスティックに自分の心情を詩っていたよね。
心情を詩うにしても自分のだけじゃないようにしたらいいんじゃないかな?
まあ単純に容姿かもしれないけどね。
今吟遊詩人が歌っているのは、迫害された王子と貴族令嬢の恋の物語だ。
よく聞くと舞台は隣国で、悪役はみな隣国人だ。
♪いつか二人でこの国を出よう
精霊の住む魔法の王国へ
そこならきっと幸せになれる♪
恋物語に隣国下げと自国上げが忍ばせて有る。
『大衆操作だお!』
この詩人さんはひょっとして。
夜になって、食事の席にさり気なく相席してきた吟遊詩人は回って来た地方の情報を世間話のように話す。
やっぱり王家の諜報員なのかな。
マクシムも騎士さん二人も普通の世間話と捉えているみたい。
でも王子と吟遊詩人は明らかにお互いを認識しているな。
『厨二心がうずくお!』
うん、松尾芭蕉隠密説とか思い出すね。
『奥の細道スパイ紀行だお!』
結構そういうの好き。
私も国で働くならそういうのもやってみたいな。
『日々旅にして旅を栖とす、だお』
そんな生活もロマンがあるよね。
世間話という報告を終えたらしい吟遊詩人は、ふと私の胸元に目を止めた。
「素敵なペンダントだね。」
「ひとつ差し上げましょうか?」
と言ってカバンの中からいくつかのペンダントを取り出す。
「いや、今君が着けてるそれがいい。」
強引な言葉が今までのイメージと違って
ちょっと戸惑いながらも首に掛けていたペンダントを渡した。
石の伝説を説明し、防御魔法陣も描き込んであることを言うと
「じゃあ高価なものなんだね。
あいにく今は手持ちが無いな。」
と言う。
「じゃあ代わりにその石がとれる湖の事、広めていただけますか?」
有名になればお客も増えてあの少年の生活も潤うんじゃないかな。
「それでいいなら。
ロマンチックな伝説だしいい物語が創れそうだ。」
諜報員の生活に少し憧れを持ってしまったので旅の話をねだる。
「旅はいいけど僕もそろそろどこかに落ち着きたいとも思ってるんだ。」
ひとしきり私の質問に答えてから、少し疲れたような顔で吟遊詩人はそう呟いた。
そしてふと時計を見上げると立ち上がる。
「それではみなさまごきげんよう
ご縁が有ればまたいつか」
歌うように挨拶した吟遊詩人は店を出て行った。




