森の休憩所
王子から神聖国についての説明を受ける。
大陸の中央に位置し、各国からの巡礼者が途絶えることなく訪れる神聖国は交易都市としても発展している。
自国での生産物はほぼ無いにも関わらず、交易の関税で非常に豊かな国だという。
政治を担っているのも教会で、最高権力者は教皇。
交易の要所と言うことで大陸の国々のなかでも発言力が大きいと言う。
こちらの輸出入品も神聖国を経由することが多いそうだ。
「今回の旅はその経路の視察も兼ねてるんだ。」
昼も過ぎたころ、森の中の湖の畔で馬車が止まった。
「商人たちの休憩所だよ。
王都と神聖国を結ぶ道にはこういうところがいくつかあるんだ。」
今は誰もいないが小さな小屋と東屋があって水場もある。
コテージ付きのキャンプ場みたいだ。
騎士たちが馬の世話をしている間に建物のチェックをする。
王都まで半日ちょっとの距離だからか、小屋はあまり使われていないようだ。
小屋と東屋の間には大きな石柱があった。
魔獣除けの結界の魔法陣だという。
「魔力は残り少ないですね。」
と石柱を調べたマクシムが言う。
ここを利用する商人や旅人は魔力の補充をするという義務があるらしいが罰則はないという。
「善意に頼るのは限界があるね。
魔力を持たない人もいるわけだし。
ミズキ、魔力の補充を頼めるかい?」
「はい。」
魔力を流し始めたところで近くで叫び声が上がる。
『森で悲鳴!定番イベントだお!』
見ると少年がオオカミのような魔獣の群れに追われてこちらに向かって来ている。
『女の子じゃないお!』
だお君が悲痛な声を上げた。
すぐさま騎士二人が魔法で防御壁を作りながら飛び出していく。
二人の間をすり抜けた少年は結界の内側に逃げ込んできた。
「ミズキは魔力の補充に専念してくれ!」
叫んだ王子は剣を取り出すと騎士と並んで魔獣を切り伏せていく。
いつもの穏やかな王子とは別人みたいだ。
でも圧巻なのはマクシムだった。
最前列の魔獣を騎士と王子が切り伏せている間に、後ろの魔獣が次々と倒れていく。
何が起こったのか分からないくらい音もなく。
マクシムは最小限の魔法でほぼ同時に何体もの魔獣を一撃で倒していた。
その顔は冷静を通り越して冷徹だ。
マクシムの戦い方と比べたら、私が冒険者として魔獣を倒した時の魔法なんか
なんて無駄が多かったんだろう。
後ろの方にいた魔獣が逃げ出すと王子たちが結界の中に戻ってきた。
「すごいや!にいちゃんたち!」
お礼も忘れて興奮気味に言う少年を囲んで話を聞く。
少年は湖の向こう岸から船で物売りに来たのだという。
いつもは桟橋まで結界が届いているのだが、魔力が残り少なくて範囲が狭まっていたのか魔獣が接近してきたそうだ。
「あの魔獣の群れはいつから出るようになったんだい?」
「ちょっと前からだよ。その前はあんなに大きな群れの魔獣はいなかった。」
「ふうん」
と言った王子はマクシムに向き直って言った。
「やっとく?」
「そうですね、放置しておくと危険です。」
「いいね。なんか徹底的に追い詰めたい気分なんだ。」
「私もです。」
二人は顔を見合わせてニヤッと笑った。
『魔獣さん逃げてぇ!』
「でも殿下は危険だと思ったらすぐに逃げてくださいね。」
とマクシムが言うと
「僕らはそんな教育受けてないよ。
僕らが逃げていいのは王家の血が漏出しそうになった時だけさ。」
と王子が笑う。
「つまり子種を搾り取られそうになった時だけだよ。」
なんか王子の言動がワイルドになってるんですけど。
『戦いは人を変えるんだお。』
王子の好戦的な顔もマクシムの冷徹な顔も
いつもの二人とはまるで違う雰囲気だった。
「ミズキはここでその子を保護していてくれ。」
と言い残して4人は魔獣討伐に向かった。
『プププー!戦力外通告だお!』
戦力外なのは認めるよ。みんなの戦い方すごかったもん。




