この国のこと
「ああ、いたいた」
1番の講義を終え個室から出たところでアリーに声を掛けられる。
「お昼、一緒に食べようよ」
食堂は朝晩決められた時間は無料だがそれ以外の時間は有料となる。
「一番安くあげるならこれ。余った食材とか使うから味はそれなりだけどね」
アリーがトレーに並べてあるパンに具が挟まれたものを二つ取り上げてお金を払った。
「おごるよ」と一つ差し出してくる。
「いや払うよ」
「おごらせてよ。君のおかげで女子とお近づきになれたしさ」
ああ昨日囲まれてたことか。
「じゃ、次は私が御馳走するよ」と言って受け取る。
「いやあまり借金はしない方がいいよ?君は援助してくれる人もいないんだろう?」
もしかして私を心配してくれてるの?
『アリーいい奴!心の友だお!』
「アリーは援助受けてるのか?」
「僕は弱小貴族の三男だけど一応小遣い程度は貰ってるよ。
それに魔法研究部に入っているからそこで薬作って売ったりもしてる。」
「魔法研究部?」
「この学校の隣に魔法研究室の建物があるだろ?
そこでは魔法の研究だけじゃなくて魔道具や薬の開発とかしてるんだ。
国営ではあるけれど独立性が高い。
卒業後、そっちに引き抜かれる生徒もいるんだけど狭き門でね。
僕、国の役人になるよりそっちで働きたいんだ。
で、今から魔法研究部に入って顔を売ってるんだよ。
顧問が魔法研究室から来てるからね。」
「へえ もうそこまで考えてるのか」
「本当はお金持ちの令嬢の婿になって自分の好きな研究を好きなように続けたいんだけどね。
それが第一希望で魔法研究室が第二希望。だから君といるのは僕の利になるのさ。」
「不純だな」苦笑する。
「まあこの学校に通ってるやつはみんな不純だよ。
貴族の女子なんかは特にパートナー探しがメインだね。
彼女たちは卒業後さっさと学費を支払って家庭に入るんだ。」
この世界では女性の一番重要な仕事は優秀な子供を産むことらしい。
だからか、働く女性は貧しく卑しいものとして見下されることが多いらしい。
「勿体ないな。女性ならではの着眼点とかもあるし、家庭に入るだけが女性の幸せってわけでもないだろうに。」
と言えばアリーは驚いたような顔をする。
「そんなこと言ったのは君が初めてだよ」
「そうかな。例えば君の母上は今幸せかい?」
アリーは一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、ふと食堂の入り口に目をやると
「第七王子だ。彼も人材を探してるんだよ。」声を落として囁く。
学校には必ず王族が一人以上在籍して学生たちを監視も兼ねて物色しているという。
「妃や側近を自分で探すのさ。
現王は実力主義だからね。王太子に選ばれるためには妃や側近選びも重要とされるんだ。
特に妃候補を王に認められないと臣下に下されたり、政略結婚の駒として他国に婿入りさせられることも有るんだよ。」
「へえ」厳しいな。でも第七王子って
「王は何人子供がいるんだ?」
「側室と言う名の人質として他国の姫をたくさん娶っているからなあ」
『ハーレムっっ!!!』しばらく静かだったのに。
「この国は えっと 一夫多妻制なのかな?」
「特に取り決めは無いな。経済力次第かな。
結婚の許可を出すのは神殿で、本人たちの同意が有れば婚姻は成立する。
神殿は一夫一婦を推奨してるし罰則が厳しいから普通一夫一婦だけどね。
王は公平な人だから自分がしていることを民衆に禁止したりしないのさ。」
「罰則って?」
「妻たちの間でトラブルが起こったらそれは全て夫の責任になるのさ。
もし離婚にでもなったら妻たちで夫の財産を分配することになる。
夫は無一文で放り出されるか元妻に縋りつくかだ。」
「一夫一婦での離婚の場合は?」
「理由にもよるけど、財産は等分だな」
離婚においては女性の権利は保護されてるみたいだ。
『僕ならうまくやるお!目指せハーレムだお!』
そこに真実の愛はあるのかな?
それからアリーは援助の無い学生は冒険者をしたり町で働いたりして生活費を稼ぎながら授業を受けているものが多いこと、
魔法学校なので武術の授業は無いのだが、剣術部や弓術部などがあって基礎を学べる事などを教えてくれた。