マクシムの事情
翌朝
案内された馬車の扉を開けると、第三王子とマクシムが向かい合わせで座っていた。
やっぱりあのウインクはこういうことだったのね。
馬車は外見は普通の貴族用の馬車を装っているが内装は豪華で乗り心地は良さそうだ。
マクシムが魔法担当の護衛で、御者に扮しているのが物理担当の護衛だそう。
物理担当といってもそこそこの魔法は使えて、堅物過ぎると言われる性格の2名の騎士が選ばれたそうだ。
走り出した馬車の中の空気は重く沈んでいた。
「何かあったのかい?」
とマクシムが聞いてくる。
「ちょっと噂されてまして。」
アリーのこととかもあるけれど。
「そういう先生こそ何かあったんですか?」
マクシムの周りの空気もどんよりと淀んでいる。
「聞いてくれるかい?」
「もちろん」
ふうとため息をついてマクシムが話し始めた。
「父があの女を後妻に迎えると言い出したんだ。」
マクシムの実母は数年前に病気で亡くなっていると言う話だったな。
「後妻を迎えることに反対はしない。
問題は相手があの女って言うことだ。」
「あの女って?」
と聞く王子にマクシムの婚約者を貶めた相談女が居たことを説明する。
「君がなびかなかったからって父親に?
すごい女性だね。」
「あの悪辣な女が家族になるなんて耐えられないから縁を切ってきましたよ。」
「それでいいのかい?君の家は伝統ある貴族家だろう?」
「爵位なんて無くてもそう困りませんよ。新興の貴族を名乗る資格はありますしね。」
この国では一定以上の税金を納めた者は貴族を名乗る資格が与えられる。
伝統ある貴族を上流貴族とし、新興貴族と分けられてはいるが実質違いはほとんどない。
「母はこうなることを見越していたのかもしれません。
父は魔力の高さを買われたような婿で、領地経営に携わることは無かった。
領地は全て僕が受け継いでいますし、父の名義は王都の屋敷ともうじき資源が枯渇しそうな鉱山だけです。」
「君の話を聞く限り、君と縁を切ったら爵位を失うのは父君の方じゃないか?」
王子の言葉にマクシムもハッと気付いたように頷いた。
「言われてみればそうですね。
父が主人のように振舞っていたので失念してました。」
そしてハハッと笑う。
「勢いに任せて手続きして後で後悔しないかと、ほんの少しだけ危惧してたんですが
私が後悔することなんて何も無かったですね。」
「手続きが間違いなく行われるよう僕も連絡しておくよ。」
王子が紙とペンを取り出して何事かをしたためて封筒に入れる。
次の瞬間手紙は消えた。
「物質転送魔法ですか?」
「うん。」
「そうだ」
マクシムが思い出したように聞いた。
「殿下は転移魔法はどこまで?」
「飛ばしてもらうのは練習済だよ。」
「でしたら大丈夫ですね。
私が同行を賜ったのは有事の際殿下を速やかに王城まで御送りするためですから。」
学校があんな状態だから、転移魔法使いとして話が来た時すぐ引き受けたんだとマクシムは笑った。




