リタイア
数日後、側妃の宮に新しい講師としてアリーがやってきた。
『綺麗な男ばかりで気が引けるって言ったから?』
アリーに失礼なこと言うな。
「側妃様が魔道具に興味がおありという事で魔法研究室の推薦を受けてやってまいりましたアリーと申します。
まだ学生の身では有りますがよろしくお願いいたします。」
仰々しく挨拶したアリーだったがすぐに砕けた口調になって側妃を笑わせている。
『コミュ力高いお』
アリーは人の懐に入るのが上手いんだ。
思えば私もアリーにはすぐ打ち解けたな。
あっという間に雑用の双子や私も巻き込まれて学生のサークルのようになった。
アリーが持ち込んできた魔道具をみんなでわいわいと試したり、分解したりする。
「私の事はイニーって呼んで」
程なく皆名前で呼ぶことを許されて、信頼を置かれているのも感じるようになる。
その心を覗けば、楽しいと言う感情と共に湧き上がるイメージは寒々しい幼少期の孤独な思い出で、これからの幸せを祈らずにはいられない。
でも私は彼女を騙している。
思考を覗き報告している。
まだ少女のような側妃に屈託ない笑顔を向けられる度、罪悪感が募る。
嫌だな。
心に汚れた塵が積もっていくようだ。
「母国で過ごした日々は幸せでは無かったようです。
こちらに対して策略などはないようですが、父親に言い含められたこととして
子を成すという役目にはまだ縛られているみたいですね。」
いつものように私室に訪ねてきた王に膝枕しながら報告する。
「あの国の王は血縁ができたら優遇されるとでも幻想を抱いているのだろう。
そんなことは無いがな。
で、恋情のほうはどうだ?」
ああ嫌だ。
すっと冷たい手で心臓を撫でられたような気がする。
人の心情を覗いて報告するなんて、なんて卑劣な行いだろう。
「今は同年代の大勢でわいわいしてるのが楽しいようです。」
「そうか。ひきつづき…」
言いかけた王の顔に雫が落ちて、私の顔を見上げた王はぎょっとして身を起こした。
「なぜ泣く」
「しんどいです。人の気持ちを覗いて報告するのが」
自分でも涙が出るとは思わなかったけど、一度あふれ出した涙は止まらない。
「嫌なら嫌と言えばいいものを」
さすがに困ったように王が言う。
「だって王命って」
涙を手で拭う私の肩に王が手を置いた。
「おいおい、女を慰めてる気分だぞ」
『ミズキは感情が高ぶると女の子に戻るお。』
そうかもしれない。
でも男だって泣くときは泣くでしょ。
私の涙が止まるのを待って
「お前はずいぶんと脆い…」
呆れたような慰めるような声色で王が呟いて
翌日からイニー妃の警護に当る日は減らされることになった。




