出禁
「わたし、魅力ないかしら?」
女性がしなだれかかって私を見上げる。
『ほら!お得意の誉め言葉で甘い雰囲気を作るんだお!』
うーん。そんな気が起きないんだよなあ。
「あ!」
女性が何かに気づいたように声を上げた。
「おっぱいね?あなた大きいの嫌いなのね?」
しゅぅぅと女性の胸がしぼんでいく。
『あああああああ』
「いえ」
「じゃあ顔ね?この顔好みじゃないのね?」
あ、瑞希にしないで。
「いえ。売春宿という設定が受け入れられなくて。」
「好みのタイプを選んでもらえば手間もかからないし、今日は通過儀礼のグループもいて人数が多かったから。
だめなの?」
「古き良き時代って言ってましたよね?
ということはあなたの根本にそういう考えがあるってことですよね?」
「そういう考え?」
「女性は買われるものって考えだよ。あなたはそれを良しとしたんだ。」
『落ち着くんだお!相手は人間じゃない、夢魔だお!』
「そんなつもりじゃ…」
「あなたにそういうつもりが無くても、
その設定でここで楽しんだ人たちにその考えが伝播していくんだよ。
人間の女性に対してそういう考えを持つようになる。」
『フェミさんの説教モードだお』
「わ、わかったわ。設定を変えるわ。
どんなのがいい?」
「私の使命は【真実の愛】なんだけど、そういうのある?」
「しんじつのあいぃ?」
『夢魔に真実の愛を求めるとはなかなかに鬼畜の所業だお』
夢魔はちょっと考えてから私の首に手を回し妖艶に微笑んだ。
「体から始まる愛もあるんじゃない?」
『始めよう!』
だが私を見上げた夢魔が私を突き飛ばして叫ぶ。
「なんて顔してるのよ!」
マクシムの気持ちがわかった気がする。
『ミズキのバカ!意気地なし!』
だってほんとにそんな気が起きないんだもの。
『まさか、ふ』ふ?
『ふふふふ不能?』うーんわからん。
「そろそろ時間よ。
今日は人数が多いんだから。」
扉の外で声がする。
「ママぁ」
目の前の夢魔の情けない声に、扉を開けて別の夢魔が入って来た。
「あら?あなた…」
じっと私を見つめた夢魔が呟いた。
「加護…」
「こいつが、あーんな顔してぇ」
と私を指さして泣きつく夢魔娘に
「隣の部屋の子の相手をしてらっしゃい」
と指示した夢魔母は私に向き直ると言った。
「あなた出禁ね。」
目覚めたのは自分だけみたいだ。
外はまだ暗い。
『か!』か?
『かかっかっかっ加護がっ』
何かの加護があったの?夢魔も何か言ってたみたいだったけど。
『ゆっ』ゆ?
『ゆっゆっゆっ!』
『《誘惑無効》!』あーなるほど。
まあいいじゃん。悪い女にひっかからないってことでしょ?
『好きな人からの誘いにも気付かないお!』
好きな人には自分から告白すればいい。
『わかってないお!』
『由々しき問題だお!
きっかけが無くなるんだお!
何十何百の機会が失われるんだお!』
ほんのりと上気したような二人と帰路に就く。
二人とも言葉少なだ。
しばらくしてアリーが口を開いた。
「どうだった?」
「出禁くらった。」
「何したんだよ!」
突っ込むアリーを制止してオングが言った。
「お互い詮索はよそう。
僕も言いたくない。」
『こいつ何したんだよ…』
たぶんみんな同じこと思ってる。




