魔王撃沈
「お兄さん。私でどう?」
隣の椅子に腰かけたのはグラマラスな美人だった。
『お願いします!』おい魔王
「いえ、私は付き添いですので」
「お友達はしばらく出てこないわよ。
あなたも楽しんだらいいじゃない。
それとも私じゃ嫌かしら?」
「いえ、とてもお綺麗ですし。」
「だったら。ねえ、お願い。」
手を重ねてもいい反応を見せない男に夢魔は内心苛立ってその顔を見る。
《あ、この男あの時の!》
夢魔の庵を新装開店する切っ掛けともなったあの男だ。
それまでの男が狂喜乱舞していた盛りに盛ったおっぱいを気持ち悪いと吐き捨てた男。
ただ肉体だけで情欲を生じさせることに限界を感じた夢魔はストーリー性を持たせることを考えついた。
手間が掛かるため一晩中吸い尽くすというわけにはいかないが、
そうやって得た精気は濃くてフレッシュでおいしいとおばあちゃんからもママからも好評だ。
《この男の琴線》
じっと目を凝らしてその思考を、心を覗く。
《同情》
見つけた、と夢魔はほくそ笑んだ。
店の入り口が荒々しく開かれた。
入り口に立った大男が店の中を見渡したかと思うとこちらに向かって大股で歩いてくる。
私の手を取った女の手に力が入り、表情は崩していないが明らかに怯えている。
大男の大きな手が女の肩を掴む。
「きょ、今日はもうお客さんが決まったの。」
女がそう言うと大男は凄まじい形相で私を睨んだ。
ここで断ったらこの女性がひどい目に合いそうだ。
女性を伴って二階に向かう。
大男はずっと私を睨んでいた。
個室に入ると女性が言った。
「あの、ありがとう」
「嫌な客なんですか?
女性には拒否権もあるって聞いたような気がしますが。」
「決まりがあっても実際に断るなんてできないわ。
お店にも迷惑がかかるもの。」
《いいかんじ。ここまでくれば私の勝ちね》
そんなことより、と女性はシャツとスカートを脱いで下着姿になる。
「どういうのが好み?」
そのシャツを拾って着せた。
『!』
スカートもと思って拾う間に女性は戸惑った仕草を見せる。
『!!』
魔王さまの動揺が伝わってきて女性を見る。
シャツ一枚で足が丸見えの姿はお色気漫画でよく見た気がするな。
「え?と?」
女性が上目遣いで首をかしげる。
『!!!!!!!!!』
魔王撃沈。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
「あ、自分で脱がせたいとか?」
「いえ」
「着たままとか?」
「いえ」
「あ、服を裂きたいとかなら服代もらうわよ?」
『何してるお!早く押し倒すんだお!』
あ だお君帰って来た。
魔王さまやっぱり撃沈?
『シャツ一枚姿がどストライクだったらしいお。
彼シャツで無かったのだけが悔やまれるって遺言だお。』




