新装開店 夢魔の庵
森を歩きながらオングに聞く。
「ルルナには?」
「もちろん内緒で頼むよ。
ただ初夜にもたつきたくないからさ。」
二人は卒業後結婚する予定だが、この世界では結婚までは純潔を守る習わしだ。
「ルルナはそんなこと気にしないと思うけどな。」
と、アリーが言う。
瑞希だったらと考えると、私もそうかな。
逆にたとえ相手がそういう仕事の人でもそういうことをして欲しくない。
『瑞希は独占欲強いお。』否定はしないな。
オングは自分に言い聞かせるように言う。
「一回手ほどきを受けるだけさ。」
『男は見栄の生き物。その意気やよし。』あれ?何か違和感。
と、アリーが指をさして言う。
「看板が出てるよ!」
前も見た、《夢魔の庵はこちら》の看板の上側に《*新装開店*》と書き足してある。
リニューアルの噂は本当らしい。
夢魔の庵に着いたのは日暮れ前だった。
小屋に入ると数人の年若い男たちが談笑している。
前来た時よりずいぶんと明るい雰囲気だ。
そのうちの一人が話しかけてきた。
「あなたたちも通過儀礼ですか?」
「はい」
と、間髪入れずオングが答えた。
「でも詳しい説明は受けて無くて。
教えていただけると助かります。」
男たちは顔を見合わせると話し出した。
「僕たちも父親の世代にずいぶん脅かされていたんですよ。」
「精魂吸い尽くされて命を縮めるとか。」
「そうヘタすりゃ廃人同様になるとかね。」
「でも最近通過儀礼を済ませた先輩の話を聞いたら全然怖いものじゃなくて。」
「一番若い夢魔の発案でそうなったらしいんですが、物語の登場人物みたいになってそういう経験をさせてもらえるそうです。」
へえ。若い夢魔ってあの夢魔かな?ママって言ってたし。
「だから今はもう、ちょっと楽しみっていうか」
軽く頬を染める。
『くくくっ。この童貞どもめ。』あれ?やっぱり
もしかして魔王さま?ひさしぶりー!
『眠りについた地に近づいたことで呼び起こされたのだ。
雪辱を果たしてくれようぞ。』
それはどうかなー。
やがて陽が落ち、辺りが暗くなると男のひとりが香を炊き始めた。
「鎮静と入眠効果のある香です。
みんな興奮気味ですからね。」
落ち着いた木の香りに甘い花の香が混ざったような香の煙が部屋に充満していく。
やがて全員が眠りに落ちた。
「新装開店、夢魔の庵にようこそ!」
幻影なのだろうか。
明るい声に目を開けると賑わっている酒場のような場所に居た。
同じテーブルにアリーとオングもいる。
別のテーブルに通過儀礼の男たち。
そして沢山の女性が給仕をしている。
「こちらでは古き良き時代、売春宿での物語をお楽しみいただきます。」
売春宿は今は禁止されている。
この国は奴隷も人身売買も廃止された。
誰にとっての古き良き時代なのかわからないが、ここは売春宿という設定らしい。
給仕をしている女性の中から好みの女性を選んで二階の個室に入る仕組みだ。
早々にオングが選んだのは、ルルナと似た体形の女性だった。
「うっかり比較したりしないようにかな。
オングは真面目だよね。」
とアリーが笑った。
そんなアリーが選んだのはおっとりした話し方をする、ちょっとふっくらした女性だった。
『ほう。母性を欲したか。』
うん。確かにお母さん風の女性だったけど。
『あの者は確か母親と血が繋がっていな…』考えないでおこう!
『お前も早くしろ。女を待たせるものではないぞ。』
いや、私はこのまま朝を待つよ。そういう気にならないし。
もしあの二人が帰れなくなると困るしね。
『はああ?何を腑抜けたことを!
据え膳食わぬは男の恥ぞ!』
いやそれ時代錯誤だから。
『バリバリそういう時代だろうがっ!』
そうかなあ。
実は売春宿という設定に嫌悪感が有る。




