第三王子
「兄上が君と話したいって」
第三王子が目を覚まして順調に回復を見せているという知らせと共に、第七王子に連れていかれる。
途中、町で一度馬車を停めて貰って花を買った。
第三王子はまだベッドの上だ。
「直接お礼を言いたかったんだ。ありがとう。
僕と皆を助けてくれて。」
差し出した花束を抱きしめるようにして第三王子は私を見て微笑んだ。
「男相手に花束なんてミズキって変わってるだろ?」
ベッドの縁に腰かけて第七王子が笑う。
いつもより口調も態度も砕けている。
「いや、うれしいよ。落ち着く香りだ。
悪いけど花瓶をもらってきてくれるかな」
第三王子に頼まれて、第七王子が出ていった。
二人きりになったところで第三王子が話し始めた。
「愛してるって君の声が聞こえたとき」
『ギク』
「闇の中にいた僕らに希望の光が差した気がしたよ。」
「聞こえてらしたんですか…」どのくらい聞かれちゃったかなぁ
「はっきりと分かるわけじゃないんだけどね。」
『ホッ』
「僕の後から人が取り込まれたのも、彼らの恐怖も伝わってきた。
僕の浅慮で彼らには恐ろしい思いをさせてしまった。
だから僕は許されないことをしたんだってずっと後悔してたんだ。」
王の推測通り、第三王子がイリヌスに魔法陣を渡したということらしい。
「それこそ命を以て償うしかないってね。
このまま悪魔の腹の中で死ぬべきだ、死んでしまいたいとずっと思っていた。」
王子は抱えた花に顔を埋めるようにして大きく息をする。
「でも君の声が聞こえたとき、生きたいって思ったんだ。」
『愛のパワーだお。』
王族らしくその感情は塗りつぶした夜のように、はっきり読み取ることはできないけれど、かすかにふるふると震えるような揺らぎが有る。
やつれた姿と相まって痛々しい。
「元気になってもらえるなら何度でも言いますよ。愛してます。」
芝居がかった仕草で片膝をつき、王子の手を取った。
「あはは」
王子が笑いだしたところで第七王子が戻って来た。
「楽しそうだね。」
言いながら第七王子が花束を花瓶に活けていると、第三王子が軽い咳をする。
「まだ無理させちゃいけないね。
また来るよ。」
第七王子が第三王子の掛布を引き上げて、私も促され扉に向かう。
「君もまた来てくれるかな?」
と問いかけられて
「はい。また愛の言葉を囁きにまいります。」
と応えれば、ふふっと笑った第三王子がまた軽い咳をした。
「何だい?愛の言葉って」
「秘密です。
殿下は第三王子殿下と仲がよろしいんですね。」
「僕らは兄弟みんな仲がいいよ。
他の国はわからないけど、僕らは異母兄弟も異父兄弟も5歳からみんな一緒に育つんだ。」
「斬新なシステムですね。」
「王族である限り果たすべき義務があるからね。
全員一丸となって国のために働く教育を受けるのさ。
生母がらみのいざこざも避けてね。」
とは言え、生母に会うことを許されないとかではないらしい。
「三兄様は優しいから特に皆に好かれているよ。」
「さんにいさま、ですか。」
そういえば王子の名前を知らない。
国王も三番とか七番とか言ってたし。
「ああ、僕らの名前は王太子が決まるまで秘密なんだ。
昔からの伝統でね。」
神託で世継ぎを決めた時代に不正が行われないようにそうなったとか。
「それぞれの生母が、自分で決めた愛称で呼ぶことはあるけどね。」
「なんにせよ、第三王子殿下が早く回復なさるといいですね。」
と言うと、第七王子は意外にも暗い顔をした。
「いや。回復したら何らかの処罰が下るだろうからね。
ゆっくりして欲しいよ。」
「今回の事件は内々に処理すると陛下がおっしゃっていましたが。」
「少数ではあるが事情を知っているものも居る。
何の処罰もなしと言うわけにはいかないさ。」




