魔法学校
翌日。
魔法学校の受付に向かう。
いくつかある窓口のうち、男性のところを選んで並ぶ。そう、あいつがうるさいから!
「こちらの魔晶球に手を当ててください。魔力量と適性を調べます。」
身分証が必要かなと思って取り出すと返されてしまう。
「こちらは魔法学校ですので魔力量と適性だけ調べます。」
「はあ」冒険者ギルドの身分証じゃ信頼性ないのかな?
腑に落ちない様子の私を見て男性は
「聞きますか?」と言って立ち上がるとコホンと咳ばらいを一つして朗々と語り始めた。
「かつての権力者は個人の能力値を全て開示させ、人生のすべてを支配しました。
結果人々の自由は失われ、その瞳には一筋の希望すらも映らなくなったのです。
王の圧政は続き、この世のすべてのものが王族のための歯車のようでした。
しかし王にとっての完璧な世界の歯車はもっとも身近なところから狂いだしたのです。
現王のお父君でいらっしゃる先王が腹違いの兄である暴君に異を唱え立ち上がりました。諸貴族と民衆をも巻き込んだこの戦いに勝利した先王は民衆に首を垂れ圧政を詫び、自由を保証しました。
そして個人情報は保護され、必要最低限のことだけが開示されるようになったのです。」
男性の言葉に周りの人々が聞きほれている。現王族への信頼と尊敬が感じられる。
「ではこちらに手を。入学に必要な魔力量があれば光るので入学が認められます。」
手を当てるのは大きい魔晶球で、それを取り囲むように小さな魔晶球が置かれている。
大きい魔晶球が魔力量で、小さい魔晶球はそれぞれの適性に応じて光るらしい。
『まあ当然だお』すべての魔晶球が光った。
魔力総量とか関係なく規定値以上なら光るし、他の情報はとらないと窓口の男性は言ったけれど実際どうだろう。
一番奥に座っていた偉そうな人が私の方を見て隣の机の人を呼んでコソコソしたらその人も私の方を見たもの。
「全ての適性が認められるのは珍しいですが、裏を返せば突出した適性が無いということになりますね。まあ頑張ってください」
受付の男性が素気無く言う。
『ぷ。嫉妬かな』いやらしく笑う脳内君は無視して
すぐに入寮できるという手続きを済ませ、必要なものを買いに町に出ることにした。
授業で使うものは学内で購入できると言うことだったので、替えの服や生活雑貨を買い込む。
『あのコもこのコも皆が僕を見てるお!ほらほら!ほらほら!ほらほらほら!』
ずっとホラホラしてるのを無視するのも大変だ。
とりあえずこの世界での生活の目途がつくまではそんなことに気を取られてる暇無いでしょうに。
『男は一人ぼっちにしておくと寂しくて死んでしまう生き物なんだお』おう、いっぺん死んでみてくれ。
寮に戻ると待ち構えていた職員に止められる。受付の時、後ろでコソコソされてた方の人だ。
「新入生への聞き取り調査にご協力願えますか」丁寧だけど断れない雰囲気だ。
個室に案内され机を挟んで向かい合う。
「今17歳と言うことですが、成人なされてからどこでどうされていましたか?
出身地もお教え願いたい。」
魔法学校へ入学するのは成人後すぐが普通とのこと。
魔力量は訓練や禁止されている薬物によっても多少増えることがあるので16歳以上で入学試験に合格した人には聞き取り調査をしていると言う。
『これはもうアレしかないお!記憶喪失だ!』まあそうだね。
「実は昨日気が付いたら王都のはずれに居まして、その前のことがわからないのです。
いくらかのお金は持っていましたので宿屋に泊まり、そこの主人から魔法学校の事を聞いて試験を受けに来ました。」
この世界に来てからの全てを話した。
「記憶が無いと?」
「はい」
職員はしばらく訝しむように私を見ていたが、やがて解放してくれた。
寮は一人部屋でバストイレ完備 良い待遇だ。食事も朝晩は無料で提供される。
その費用が全て学費に含まれて、国の管理から外れようと思えば請求されるといわけか。
『他に生活費も貸してくれるらしいお』貸与型奨学金みたいなものかな。
卒業試験に受かればそれで働き出すことが出来るので、なるべく早く卒業できるよう頑張ろう。