演劇同好会
「久しぶり。ちょっといい?」
アリーに声を掛けられた。
「紹介したい人がいるんだ」
アリーの後ろから女子が顔を見せる。
『メガネっ娘だお!』
「初めまして。演劇同好会の会長やってますイオニーといいます。」
同好会と言うのは剣術部などの部と違って、生徒たちが自発的に集まって活動しているものらしい。
「一期に一度演劇を発表しているんです。脚本は私が書くことが多いのですが。
今期の出し物についてお話を聞いて欲しくて。」
「私にですか?」
「ええ!あなたに!ぜひ!」なんだろうこの圧。
燃えるような赤い感情がゆらゆらと迫ってくる。
とりあえず曖昧に頷くとイオニーは語り始めた。
物語は一人の青年がこの国の王都の外れに現れたところから始まる。
「彼は隣国の側妃を母に持つ王子でしたが、隣国には珍しく魔法の才に恵まれ将来を嘱望されておりました。」
隣国に限らず、この国の周辺国は魔法の才を持つものが少ない。
この国の圧倒的な軍事力は魔法使いが担っていると言っても良く、特にあまり仲の良くない隣国は魔法使いの育成に躍起になっているらしい。
「だがそれをよく思わない正妃は王子の教育係であった魔法使いを買収し、王子の暗殺を企てたのです。
信じていた教育係に裏切られ失意の中逃げ出した王子の向かう先はある貴族の館。
そこは王子の恋人の住む館でした。
恋人もまた希少な魔法の才を持ち、幼いころから王子と一緒に同じ教育係に指導を受けていました。」
「王子を匿おうとする恋人でしたが直ぐに追手が迫ります。
追手の凶刃が王子に迫ろうとした時恋人は王子を庇い重傷を負い、残るすべての力を使って王子をこの国の王都の外れまで転移させたのです。
王子はその転移魔法の副作用として記憶を失いましたが、愛しい恋人の姿だけは忘れられませんでした。」
「恋人の面影を探しつつも自己鍛錬に励む王子。
やがて王子の才能は我が国の王家に認められ、王城にも出入りを許されるようになりました。
そこで出会った我が国の美しい王女に恋人の面影を認めた王子は、亡くなった恋人ごと包み込むような王女の愛情に癒され、二人は愛し合うようになりましたとさ。
めでたしめでたし。
と言う話なんですが主人公の名前にあなたの名前を使う許可を頂きたいと思いまして。」
「は?」何言ってんの?
「あなたさえ良ければ主役を演じてくださってもいいのですが」
「いやいや」
『演技力+の加護を生かすチャンスだお』そんな加護があったとしても!
「申し訳ありませんが演劇に興味もありませんし、私の名前を使う意味が分かりません。」
「あなたをモデルにしてるからに決まってるじゃないですか!」
「いやいや記憶喪失で王都に現れたことしか合ってないし」
食い下がるイオニーになんとかお引き取り願ってアリーの顔を責めるように見る。
「いや僕も悪いとは思ったんだけど彼女がどうしてもって聞かなくてさ。」
へらっとアリーは笑う。
『アリーはこういう奴』まあね。
それより
「ちょっと気になったんだけど転移魔法とか副作用って?」
と、アリーに聞く。
「ああ、転移魔法は高度な魔法なんだよ。
今使える人は数えるくらいじゃないか?
魔力の消費量も多いけど精神面の強靭さも必要なんだ。」
「どういうこと?」
うーんと唸ってからアリーは言う。
「一度自分を分解して再合成するようなイメージなんだけどわかるかな?
精神面が脆いと再合成で失敗することがあるんだ。」
「失敗するとどうなるんだ?」
「さっきの劇の話みたいに記憶を無くしたり、一番ヤバいのは肉体の再合成が出来なかった時かな。」
『グロいの想像したお!』私も!
「最悪死に至る。」
「怖い魔法だな…」
「だから習得にはサポートが必要なんだ。
才能と財力両方揃わないと習得できない魔法だよ。」
とっても便利そうな魔法だけど難しそうだな。
「あ」と今気づいたようにアリーが言う。
「新しい魔法研究部の顧問が転移魔法の使い手だよ。
魔法研究室で人事異動があったらしくて顧問が変わったんだ。」
興味あったら部に来てみなよ、と言うアリーといったん別れる。
向こうに王子の姿が見えたからだ。




