帰還
手分けして、とりあえずの応急処置に倒れた人たちに治癒魔法をかけているうちに数台の馬車が到着する。
目立たないように道を違えて王城に到着した馬車から降ろされた人たちは治療室に移された。
「イリヌスは?」と王子に聞く。
「今夜のうちには王城に連れてくる予定だよ。
今も見張りはついている。
直接の嫌疑は試験官としての不正だ。
君の試験結果を不合格で提出したからね。」
『何だとお?』
あいつほんとに性格悪いな。
「他の試験官の証言は取ってある。
文句なしの合格点だったってさ。」
あとひとつ気になることが有る。
「それで、兄上とは?」
「秘匿事項だ」王子は声を落とした。
対外的には病に伏したことになっている第三王子。
彼もイリヌスの犠牲者と言うことらしい。
「詳しい話は父上から話すことになると思う。
今はここまでにして欲しい。」
いつになく神妙な顔で王子が言った。
「こちらからも質問いいですか?」とリットさんが言う。
「イリヌスが持ち出したミズキ殿の荷物に録音装置が見当たらないのですが
もしかして録音していましたか?」
「あ、はいポケットに隠し持って」と言いかけて気付く。
あの愛の加護とか愛してる攻撃とか聞かれちゃうの?
「お手柄だよ!これは確実な証拠になるな!」
王子がポケットの録音装置を奪い取るように取り上げて調べる。
「いつから録音してた?」
「試験後からです。」
王子とリットさんは顔を見合わせる。
「肝心なところは録音限界超えてそうですね。」
リットさんが呟いた。
「ミズキを誘い出した証拠にはなるかぁ。」
王子も肩を落とした。
『セフセフ』だといいんだけど。
悪魔から聞いたイリヌスの話など大まかにまとめて提出し、私室待機になった。
『無双活劇楽しかったお!異世界はこうでなくちゃだお!』
私は疲れたよ。もう戦いは要らないな。
ソファに体を預けてため息をつく。
疲れはあるが目が冴えて眠くならない。
夜も更けた頃、王がやって来た。
「まずはすまなかった。
七番が無茶をさせたようだな。」
王が頭を下げる。
『七番て』
「いえ、そんな。解決して良かったです。
頭を上げてください。」
だが王は頭をより深く下げた。
「そして三番の救出、感謝する。」
『三番て』
「具合はどうですか?」
王はようやく頭を上げた。
「まだ眠っているが治癒士の話ではいずれ目覚めるだろうとのことだ。
他の学生たちも同じだ。」
「悪魔の腹の中では時間の流れが違うのでしょうか?」
「いや生命を維持する最低限のものが与えられていたのだろうと。」
王はソファに身を沈めると顔に手を置いて天を仰いだ。
「半ば諦めていた。お前には感謝しかない。」
『王も人の親だったお。』
「彼らはずっと恐怖を味あわされていたみたいです。
目を覚ました後も気を付けてあげてください。」
「ああ、わかっている。」
ふぅと大きな息をついてから王は笑顔を作って言った。
「今回の件は内々での処理になる。
お前に表立った褒賞はやれないが何か希望があるなら叶えよう。」
希望かあ。
ふとミルダの顔が浮かぶ。
「ミルダの魔力の封印を解いてもらうわけにはいかないでしょうか。」
「あの娘のことがそんなに気になるか?」
「ミルダが気になるというか…
どうしても私が止めていればという思いが消えなくて。」
王はため息をつく。
「残念だがそれは無理だ。
一度組み込まれた魔法陣は消すことができない。」
「そうなんですか?」
「魔法陣が廃れた原因の一つでもあるな。」
それは私にとって衝撃的な事実だった。
ミルダは一生魔法が使えない。
「あの娘は今の状況をそれなりに楽しんでいるようだぞ。
まあ多少の待遇の改善なら申し送ろう。
他に希望は無いか?」
「今のところは特にないです。」
「今回の詳しい話もまた時間を取って話してもらう予定だが今日はここまでにしよう。
ゆっくり休め。」
王は立ち上がり部屋を後にする。
ミルダがミズキに貰ったコインを早々にペンダントに加工して身に着けていることは言わなかった。
それをミズキに知られるのは厄介だ。
同情や責任感が愛情に変わることもままあるからな、とひとり呟いた。




