要注意人物
「今日の講師は要注意人物だ。」
学校へ向かう馬車の中で王子が言う。
魔法研究室でそれなりの地位にある本日の講師は、優れた研究成果を収める一方で人道に外れた行いをしている疑いがあると言う。
「奴は魔力の高い実験体を探しているんだ。
だからミズキ、奴に誘いを受けたら乗ってみてくれ。」
『気を付けてくれって言われるのかと思ったお。』私も私もっ
「囮になれと言うことですか?」
「今まで尻尾を掴むことが出来なかったんだ。
解決したら父上に褒められちゃうな。」
王子は浮き浮きと言う。
仕えるに値しない主かな?と聞かれたことを思い出す。
今なら“はい”って言えるかも。
ついでに王子の感情も覗いてみる。
やっぱり紺系だ。
国王のもリットさんのも王子のも画用紙に塗った絵具のように動きが無い。
ただ、王子の感情は、上方に月のような明るい部分が有って、それを言葉にするなら“憧れ”とかかなぁと思う。
教壇に立った痩せぎすの年老いた男は、黒いローブを身に纏った怪しげな姿で教鞭をとる。
講義のあらましをひとしきり話した後、ぐるりと受講生を見渡した。
そして私を見て、一瞬目を見開く。
「かかったな。」
手で口元を隠した王子が呟いた。
講義の終了と共に、講師がこちらにやって来た。
「第七王子殿下。ご機嫌麗しゅう。」
うやうやしく礼をとった講師は私の方を見る。
「そちらは新しい従者ですかな?」
王子は私をチラッと見ると嘲るような顔をして言う。
「ああ、見た目がいいから側近候補にと思ったんだけどね。
君も知ってるかな?僕が魅了を掛けられそうになった事件。」
「ああ、例の」
「その時操られて手引きしたのがこのミズキさ。」
「まあまだ入学して日も浅いから大目に見てるってとこかな。ね?」
王子が私の方を見るので
「ご配慮痛み入ります。」と、頭を下げる。
その頭を王子が抑えてさらに低くした。
「やっぱり身寄りのない平民には荷が重いかな?」
アハハっと笑ってから手を放す。
「そのまま頭を下げていろ。」
冷たい声音で命令され、講師が去るまでその姿勢を維持することになった。
『ギリギリギリギリ』
歯ぎしり?ま、そう怒らないで。
私には見えている。王子が膝をついて許しを請う姿が。
なだれ込むように寮の私室に三人で入る。
「上手くいった!
奴が食いつきそうな餌は撒いた!ね、リット!」
王子がリットさん相手にしては珍しく興奮気味に話しだす。
「はい。お見事でした。
ミズキ殿が冷遇されていること、経験不足でボンクラなこと、
姿を消しても騒ぐ親族もいないこと、充分に伝わったと思います。」
「頭を下げさせたのは…?」と聞くと
「目を合わせるのは危険だからだよ!
精神操作系の魔法は目を合わせて掛けることが多いんだ。
まだ君の状態異常無効の能力を知られるわけにはいかなかったからさ!」
王子が熱弁する。
「私の見たかぎりでは」リットさんが話し出す。
「魔法を掛ける様子は有りませんでしたが。」
「リットぉ!」
「まだちょっと痛いです。」と言ってみる。
「悪かった!強く押しすぎたかな?治癒師を呼ぶかい?」
王子が聞いてくる。
「いえ。痛いのは心ですから。」
稲妻が落ちたような顔をした王子はリットさんを部屋から押し出すと鍵を掛けた。
そして予想した通り膝をつく。
「すまない!事前に説明すべきだった!」
「いえ。仕える殿下のなさることですから。
次は囮になればいいんですよね?」
王子の手を取り虚ろな笑みを見せてみる。
王子は一瞬戸惑ったようだったがすぐに持ち直した。
「頼む!万全の準備をする!
どうか奴の悪事を暴いてこれ以上犠牲者を出さないために力を貸してくれ!」
『“僕がパパに褒められるために”の間違いだお』
また床に手をついた王子をちょっと放っておいてみる。
「頼むよぉ」
私からの反応が無いので王子は涙声になった。
『いつもの』泣き落としね。
「で、奴は何をしたんです?」
ぱっと顔を上げた王子は得意げに言う。
「奴と接触した後行方不明になった学生が数人いるんだ!」
続く言葉が無いようなのでリットさんを部屋に招き入れる。
「他には?」
王子とリットさんは顔を見合わせる。
「他に分かっていることは何です?」




