特別講義
「服は寝室のクロゼットに用意してありますので着替えてください。」
リットさんに言われて、初めてクロゼットを開く。
『コスプレし放題だお』
リットさんも着ているスーツっぽいのとか、騎士服みたいなのとか、豪華な飾りのついた盛装っぽいのまでずらりとクロゼットに並んでいる。
「ここまでしてもらわなくても…」と呟けば
「殿下の側近として恥ずかしい格好は許されません。」
ぴしゃりと言われてしまう。
とりあえず一番シンプルなシャツとパンツを選んで着替え、朝食をいただき、王子とリットさんと一緒に馬車に乗った。
王子が受けるのは特別講義。
専門課程の全課程を履修したものだけが受講でき、映像でない実物の講師が教鞭をとる。
「今日の講義は古代魔法だ。」
王子が古代魔法について説明する。
魔力を持つ人間がほとんどいなかった昔、魔法は精霊の力を借りるものだった。
魔法陣で精霊を召喚し魔法を発動してもらう。
そのうちに精霊と契約を結ぶものが現れた。
契約を結べば魔力が分け与えられ、魔法陣無しで魔法を発動できるようになる。
そしてその子孫は魔力を持って生まれてくるようになった。
精霊王と契約を結び、強大な権能を賜ったのが王家だと伝えられている。
やがて魔力を内包できる鉱物が発見され、魔法そのものをそこに蓄積・復元が出来るようになると、魔法陣はその複雑さも相まって急速に忘れ去られていった。
そのころから魔法陣を描いても精霊は姿を見せなくなったけれど、魔力を流しながら作成した魔法陣は精霊の力を再現できる。
姿は見せないが、その魔力を贄として精霊が魔法を使っていると唱えるものと、魔法陣自体が魔法の発生源と唱えるものとの議論は決着を見ていない。
「だからこの講義を受けるのは、大体は古代にロマンを感じる研究者なんだけど、
新しい力を手に入れようとする危険な思想の持主がいないとは限らないんだ。」
「新しく精霊と契約するということですか?」
「ここ数百年新しい契約者は現れていないけどね。
人間と精霊は離れすぎた。
我々はもう精霊を見ることは叶わないだろうね。」
後ろの席に行くに従って高くなっていく傾斜のある教室の、一番後ろの席が王族の指定席だ。
その後ろにリットさんと並んで立つ。
リットさんは受講者を見回して何やらチェックしているみたいだけど、私はただ立っていればいいと言われ、ついでに講義を聞いている。
王子の懸念に反して、講義内容は実に平和なものだった。
魔法陣を物体に書いて効果を付与する方法を講師が説明し、実際にやってみる。
今回付与するのは防御の魔法だそうだ。
流した魔力の量だけ攻撃を防ぐ盾が形成される魔法陣。
魔法陣を描いた紙が配られて、おなじ文様を対象物に魔力を込めて描く。
「防御魔法なので身に着けるもの、ペンダントなどが最適ですね。
素材は金属か鉱物が適しています。」
講師の説明に、受講者は前もって話を聞いていたらしくおのおの対象物を取り出し、描き始めた。
魔法陣が成功すれば光った後対象物に溶け込むように消えていく。
細かい作業で、成功率は20%といったところだろうか。
成功したのは対象物が大き目の人ばかりだ。
王子はどうも不器用なようだった。
一度魔法陣が組み込まれれば、定期的に魔力を補充するだけで効果は続くという。
なんにでも付与できるなら、例えばすべてのアクセサリーにいろんな効果を付与しておいたり服のボタン一つ一つとかにも…
なんか楽しそう。図工の時間みたいだ。
「こんな小さいところにあの複雑な文様を描くなんて無理だよ。」
講義が終わって、とうとう一度も成功できなかった王子はため息をついた。
「ミズキ殿は興味ありそうでしたね。」
リットさんが言う。
「ええ。楽しそうだなって思いました。」
王子はぷうっと頬を膨らませた。
「じゃ、やってみなよ」
魔法陣の描かれた紙とペンダントを突き出す。
「いいんですか?魔法陣は秘密なんじゃ」
と聞くと
「この程度の初級の魔法陣なら図書室の本にだって載ってる。
やってみたらいいよ。」
と言って、そのままリットさんを連れて帰ってしまった。
負けず嫌い?
王子の意外な一面を見たな。
寮の部屋に戻って早速ペンダントに魔法陣を描いてみる。
インクをつけないペンで魔力を流しながら魔法陣を描いていく。
最後に外周を円で囲めばぱぁっと光った魔法陣がペンダントに溶け込む。
楽しい。
『《器用さ+》は伊達じゃないお』
あ、なるほど加護ね。
でも元世界一器用な民族日本人ていうのも伊達じゃないんじゃない?
まあそれにしても楽しい。
こういう細かい作業久しぶりですごく集中できたから。
いつもいつも細かい作業って言うのは嫌だけど、たまにする細かい作業はなんでこんなに楽しいんだろう。
もっと描きたいけどアクセサリーなんて持っていない。
適した素材は金属や鉱物と言っていたけど…
『コインとかどうだお?』
お、ナイスアイデア




