夢魔
息苦しさに目を開けると、視界が肌色に染まっていた。
はっとして頭を後ろに引くと、それが女の乳房だとわかる。
これが夢魔の見せる夢なのかな?
感触も匂いもまるで現実だ。
私に覆いかぶさるようにして乳房を押し付けていた女は少し身を起こすと
「おっぱい好きでしょ?」と聞いてくる。
いやでかすぎじゃない?
ハーレムものの漫画でよく見た異常な大きさの胸だ。
ぶっちゃけ気持ち悪い。
「何この垂れ下がった肉塊」思わず呟く。
柔らかさより温かさより、その大きさに掛かる重力に着目してしまう。
「垂れ下がったとは何よ!」
女が叫ぶと乳房が風船のように膨らみ不規則に揺れる。
別の生き物がそこにいるようだ。
「反重力肉塊!気持ち悪っ」
「何ですってぇ?」
夢魔の庵に棲む夢魔は現在3世代3体。
男の精気を吸い取り続けて、その澱のようなものから新しい夢魔が産み出される。
三代目のこの夢魔はまだ生まれて日も浅い駆け出しだった。
「男はみんなおっぱい好きでしょぉ?」
「いや好きだろうけど、あり得ない大きさの見せられても肉塊にしか見えないよ」
女はじっと私を見てニヤッと笑う。
「もうひとつの人格はもう昇天してるみたいだけどね?」
脳内君、こんなのでいいのか。
「じゃ、好きな女になってやるから」
じっと私を見ていた魔物が形を変える。
「あなたの心を占めてる女の姿よ!」
…瑞希じゃん。
瑞希の姿になった魔物が得意げに私を見る。
「どお?」
いやこうやって客観的に見ると瑞希ってほんと色気無いな。
父親が若い頃 格闘技のプロを目指していて、瑞希も小さいころから柔道とかやってたから、筋肉質で締った体を自分では気に入っていたけれど、女性らしい柔らかさとか感じない。
これは浮気されますわ。
その瑞希が体をくねらせ科を作る。
私の首に両手を回し抱え込むようにして顔を近づけてくる。
これはこれで気持ち悪い。
一向に盛り上がらない雰囲気に魔物が叫ぶ。
「このままじゃ引き下がれないわ!
もっと背景を探っちゃうから!
人間の通過儀礼の協力者としての地位を築いた、おばあちゃんの名にかけて!」
魔物の目が怪しく光ると視界が暗転した。
瑞希!瑞希!
暗闇の中に聞こえるのは母の声だ。
瑞希!返事をしてくれ!
父だ。
姉ちゃん!なんでだよ!
弟だ。
これはきっと私が死んだ時だ。
病院で泣き崩れる家族の姿が浮かんでくる。
少し離れて壁に片手を付いて体を支えるようにして立っているのは元彼だ。
相談女に絆されて浮気した男だ。
バカだった
早く謝ればよかった
いつか許してくれると思ってた
もう会えない
そんな後悔がぐるぐる渦巻いているのが伝わってくる。
そっか。あの子の方がいいってわけじゃなかったんだ。
瑞希の心が温かくなったのを感じる。
私、愛してもらっていたんだな。
そしてみんなの幸せを心から願った。
「時間切れよ。もうじき夜が明けるわ。」
違う魔物の声がする。
「えーママでもぉ」
魔物が甘えたような声を出す。
ママと呼ばれた魔物が私に話し掛ける。
「あなたが連れ戻しに来たその子、死に別れた恋人の姿ばっかり求めるのよ。
このままじゃ生きてるとも言えないわね。精気も美味しくないし。
なんとかしてやって。」
ここの夢魔が人間といい関係を築いてきた理由がわかった気がする。




