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脳内男子がうるさくて  作者: ちぇりこ


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夢魔の庵

ギルドで報酬を受け取って山分けにしてアリーと別れる。

「好きなタイプかぁ」アリーとの会話を思い出す。


なんていうかさ。

瑞希は結構ロマンチストで、前世からの縁とか運命の人とか信じてたんだよね。

だからこの世界に突然飛ばされて、そういう縁とかがプッツリ切れた何もない人間関係の中でゼロから相手を探すってハードルが高すぎて。

『何事もやってみなければわかるまい。』

でもさ。女性の立場が弱いこの世界で誰かの人生を背負う勇気が出ないんだよね。



冒険者ギルドの依頼は壁一面に張り出されている。

何とはなしに眺めていると、変わった依頼を見つけた。


「夢魔の庵から帰ってこない人を連れ帰る?」

夢魔ってあれかな?淫夢を見せて精気を吸い取るという。

『せいきをすいとる…』精気だからね?

『精即ち是性なり』色即是空みたいに言うな。


「その夢魔の庵っていうのはな」

ニヤニヤしながら先輩冒険者が話し出す。

「いい夢を見せてくれる女の魔物のねぐらなんだが」

周りの冒険者もニヤニヤと話に加わる。

「あんまりいい夢過ぎて帰ってこないやつがたまにいるのよ」


「危険な魔物なら討伐しないんですか?」と聞くと

「周辺部族が成人男子の通過儀礼に利用していて保護されているんです。」

受付嬢が説明する。

「その方たちが帰らない人たちの食事の世話等してくれていて、命が脅かされるわけではないのですが」

「貴族の坊ちゃんだったりすると、たまに親が依頼して連れ戻すのさ。

大抵はまた戻っちまうがな。」


「みなさんも行ったことがあるんですか?」と聞いてみる。

「ああ、いい夢見せて貰ったな。

だが翌日の疲労感と言ったらもう。」

昼間起き上がれなくて夜一睡もせず逃げ出したとか、自分は3日かかったとかそんな話が続く。

「まあ男なら一度は経験しておくべきだな!」

と背中を叩かれ、成り行きで依頼を受けることになってしまった。


「説明を」

受付嬢が言いかけると

「俺たちが教えといてやるから手続きだけしといてよ。」

先輩冒険者が私の学生証を受付嬢に押し付ける。


夢魔の庵は深い森の中。

森の入り口までは馬車も使えるが、以降は徒歩で行くしかなく、どうしても泊まりになるという。

「夜になれば夢魔の活動時間だ。

眠ってしまえばお前もいい夢から抜け出せなくなるかも知らねえぞ」

「まあ寝なきゃいいのさ」

男たちがゲラゲラ笑う。


「ほら、受付済んだぞ。

出発は早朝がいいな。夢魔の庵までは一日かかる。

ギルドはまだ開いてないから家から直行でな。」

学生証を渡され何故かギルドから追い出された。


念のため野営の準備をし、食料を買い込んでこっそり空間収納に収める。

怪しまれないように大き目のリュックも用意した。


翌朝早くに出発する。

魔物という格上の存在がいるため、夢魔の庵のある森には魔獣がいない。

魔力を帯びていない獣は警戒心が強く臆病で、人を襲うことはまずないので安全に歩くことが出来る。

何故か《夢魔の庵はこちら》みたいな看板も出ていて、迷うこともない。

細い、人ひとりが通れるような道が木々の間を縫うように続く。

到着したのは陽が沈みかけた頃だった。


夢魔の庵はよく管理された山小屋のようだった。

中に入ると、男が数人毛布にくるまっている。

目的の人物は頭まで毛布をかぶり、壁に寄りかかって床に座っていた。

貴族であろう、端正な顔立ちではあるが髪も髭も伸ばしたまま、うっすら微笑みを浮かべているがその瞳には光が無い。


「あなたを迎えに来ました。」

声をかけるも反応は薄い。

「明日、朝になったら一緒に帰りましょう。」

男は曖昧に頷いた。


男の隣に座って自分も毛布を掛ける。

眠らないつもりだったもののずっと歩いてきた疲れで瞼が重くなった。



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