森で
「暇ならちょっとつきあってくれないか?」
アリーが話を変える。
魔法薬の材料の採取に森に行きたいとのこと。
「ついでに冒険者ギルドで依頼を受けていこう。報酬も稼げるしね。」
「何か買いたいものでもあるのか?」と聞けばちょっと口ごもりながら
「母にね。なにかプレゼントしたいと思って」と言う。
「自分で稼いだお金で買いたいってこと?」
「そうだよ!」赤くなってそっぽを向く。
お母さんとの関係はいい方向に向かっているのかな。
「わかった。準備するよ。」
のろのろと必要なものを集める。
冒険者カードが見つからない。
「どうした?」アリーが聞く。
「冒険者カードが見つからないんだ。」と言うと
「ああ。冒険者ギルドの依頼ならここの学生証で受けられるよ。」
と言いながら自分の学生証を見せる。
「アリーは冒険者登録はしてないのか?」
「特に必要では無かったからね。
冒険者として高難度の依頼を受けたいなら実績が必要だから登録すべきだけど、
軽い依頼をこなすだけなら登録する必要はないんだよ。」
「へえ」アリーは物知りだなあ。
「まあ登録しないとわからないことも有るんだけどね。能力値とか加護とか。
君は加護とか持ってるの?」
「うーん」言っていいものかなあ。
「技術習得+って言うのがあったな。他のはあんまり…」
「いくつもあるの?すごいじゃないか。
普通加護は一人に一つ有るか無いかだよ。」
「あ、そうなんだ?」
一度じっくり確認しておいた方がいいかもしれない。
部屋を出て歩きながらアリーに聞く。
「カードの再発行ってできるのかな?」
「あのカードの加工は特殊でね。
初めに無料で作ってくれるのは大サービスなんだよ。
再発行の手数料は庶民の平均年収くらいかな。」
「え」
『なぜ空間収納を使わなかったのだ』
いや亜空間の方が迷子になりそうじゃない?
『脳と直接リンクしているからイメージしただけで出てくるぞ。』
そんな便利なんだ。
今度は武器とかも全部しまっておこうかな。
弟と一緒にゲームしてたことを思い出す。
焦って武器をよく選び間違えた。
とりあえず学生証で弱い魔獣の討伐依頼を受け、王都の外れの森に向かう。
「薬草は僕が探すから君は魔獣を警戒してて。
探知魔法は使えるかい?」
「探知魔法はまだ習ってないけど」
『探知魔法などより探索の加護を使え』
そんなのもあるのか。
『探索対象をイメージすればそこに繋がる道がわかる』
ふむ。魔獣魔獣っと。
魔獣といっても姿は様々だが、纏うオーラみたいなものは共通している。
黒く禍々しいそのオーラをイメージするとそこに続く光の道のようなものが見えてくる。
近いものほど光の道が太く明るい。
「こっちが近いかな。何ていう魔獣なのかはわからないけど」
イノシシみたいな形ってなんて表現したらいいんだろ。
「探知魔法じゃなくて何で調べたんだい?」
アリーが聞いてくる。
「なんだろカンかな?記憶を無くす前に習ってたのかも?」
アリーは怪訝そうな顔をしつつも
「行ってみよう」と歩き出した。
「近いよ」
アリーに声を掛け身を屈める。
前方の木の陰にイノシシみたいな魔獣のお尻が見える。
「依頼のあった魔獣だ」
アリーは鞄をごそごそと探り出す。
「試してみたい魔法薬が有るんだ。
弓術部の君の腕の見せ所だよ。」
矢の先にアリーの作った魔法薬を塗り付けて
「命中すれば絶命するはず」
「毒矢みたいなものかな?」と聞くと
「毒ではないよ。肉が食べられなくなるからね。
魔獣を魔獣たらしめているエネルギーの根源に作用して枯渇させるクスリさ。
まだ研究中だけどね。」
「なんか恐ろしそうだな。」
「人間には害はないよ。」
アリーはにっこり笑う。
『狂気』
まあ研究者ってこんなかんじだよね。きっと。
番えた矢にターゲットを追尾するよう魔法を乗せて射る。
だが命中したものの絶命に至らなかった魔獣は暴れだした。
周りの木に体当たりし草をなぎ倒し跳ね回る。
「クスリが弱かったかなあ」
「早く倒してやらないと苦しそうだ。倒すよ」
次の魔法薬を用意しようとするアリーを放って魔法で倒してしまった。
「もうちょっと試したかったんだけどなあ」アリーが残念そうに言う。
「魔獣とはいえ苦しむのはかわいそうだ。
暴れまわったら他に被害が出るかもしれないだろ。」と言うと
「まあそれはそうだね。」
言うもののアリーは納得しがたいようだ。
「君は本当に変わってる」
魔獣の死骸を魔法で浮かせて冒険者ギルドへ運んでいく。
浮かし続けるのは集中力を使うし結構難しい。
アリーと交代しながら進む。
『空間収納を…』人に見せない方がいいと思うんだよね。
転生ものやゲームの世界ではポピュラーな空間収納だけど、この世界では使ってる人見たことないし。
「そういえば」アリーが話し出す。
「今朝一緒に食事してた子は誰?」
「ああ、エリーナ?弓術部の子だよ。」
「ああいう子がタイプなの?」
「いや。誰がタイプとか無いな。今はそんなことより生活基盤を整えたい。」
「と言っても好きなタイプとかあるだろ?」
『どんな者であろうと我が色に染め上げてくれるわ』
わあモラハラっぽい。
「そういうアリーはどうなんだよ」
「僕はタイプとかより結婚後どういう生活を送りたいかだな。
とにかく好きな研究を邪魔されず進めたい。君は?」
「うーん。私は愛情に溢れた生活がしたいかな。」
「あはは」アリーが笑って、浮かせた魔獣がブルブル上下する。
「そんなにおかしいか?」
「うん、君はおかしい」
アリーは続く言葉を飲み込んだ。
能力が高くて外見も良くて何でも思い通りになる人生なのに求めることがそれだけなんて。




