ミルダ
第七王子の側近候補という噂が広まったのか、貴族らしい女子から声を掛けられるようになった。
『ようよう我の魅力に気づいたようだな。苦しゅうない。近う寄れ。』
こいつの女子に対して心折れないところは尊敬するな。
私としては下心がミエミエなのは警戒しちゃうけど。
「ミズキ君は弓術部のアイドルなんですぅー」
死角から突然腕に絡みつかれる。
「弓術部の…ミルダさんだっけ?」
「そう、ミルダだよぉ。疑問形ひどーい」
ポエマーが《触れ合った君の温度を忘れない》って言ってたのはこの子だな。
あの時も腕に絡みついてきた。
「話があるのー。こっちきてー」と引っ張られる。
ミルダが絡みついた腕に何故かキュッと力を入れる度、妙な感覚があるのに気づく。
『あててん…』違う。
肌が触れ合ったところから薄黒いシミが広がっては消えるような。
『状態異常無効の加護が働いているな。
この娘、魅了魔法を使ってまで我の気を引きたいと見える。』
それって普通にやっていい事なの?
「ミルダぁ王子様とお話ししたいなぁって。
ミズキ君、紹介してくれるよね?」
狙いは王子だったか。
「もちろんミズキ君のことも好きだよぉ。
お願い聞いてくれるよね?」
ダメ押しとばかりにキュッと力を込めてくる。
「王子殿下にお伺いしてみませんと」
と、普通に答えるとあれ?という顔をしてさらに力を込めてくる。
『騙されてやるも一興』
でもそうすると私の信用が無く…なってもいいんじゃない?
側近候補から外されて万々歳じゃない?
「わかった。力になるよ」にっこり微笑めばミルダは無邪気に喜ぶ顔を作って見せる。
「ミズキ君大好き!」
乙女ゲームのヒロインに転生した性悪女みたいだな。
悪役令嬢にざまあ返しされるタイプ。
王子を人気のない裏庭に誘い出した。
「何を企んでいるのかな?」
王子はいつもの微笑みを浮かべている。
「殿下のファンという方がおりまして」
この澄ました顔がデレるのは面白いかも。
「はじめましてぇ。ミルダと申しますぅ。」
駆け寄りながら自己紹介したミルダが何もないところで躓いて転びそうになる。
思わず支えるとミルダに睨まれる。
「ミズキ君じゃなくてぇ、王子様に支えて欲しかったの!」
『魅了魔法の発動に接触が必要なようだな』
いきなり魅了掛ける気なのか。相手は王族なんだけど。
さすがに冗談で済まない気がして接触を阻む方向にする。
「今日初めて会ったわけだし、挨拶できただけでいいじゃないか」
腕にミルダを支えたまま言うと
「えーミズキ君、やきもちぃ?男の嫉妬は見苦しいよぉ」とうざい事を言う。
「ミズキの大事な人なのかい?」王子が私に聞いてくる。
「いえ部で一緒の」言いかけるもミルダが割って入る。
「ミズキ君はそうかもしれないけどぉミルダはぁ」
頬を赤らめ王子を上目遣いでチラッとみる。
実にうざい。
「王子様のことずっとぉ」ミルダが私の腕を払って、王子の手を取った瞬間
凄まじい閃光が走り、目を開けたときにはミルダは地面に倒れ伏していた。
「王族が何の備えも無しにいるはずがあるまい。」
見降ろした王子は冷たい視線を投げる。
「呪詛返しも非接触であればこれほどではないのだがな」
「処理を頼む」
王子が後ろの藪に声を掛けると、いつもの侍従と3人ほどの男が姿を現した。
「さてミズキ。君はこっちだ。」王子に手を引かれる。
『つひに行く 道とはかねて聞きしかど 昨日今日とは思はざりしを』
何辞世の句詠んでるの。




