歓談
一旦屋敷までも飲み込んだ黒い靄が
何日かしてあの大きさに収まったのは聖女の命が尽きたってことかな。
件の領主は聖女がいなくなってからほどなくして
木が枯れるように生気を失っていき亡くなったと言う。
聖女に救われた命だから継続的なエネルギー補給みたいなのが必要だったのかもしれないな。
食事の済んだテーブルで 嘆きの聖女の物語を読み終えると
ひとりの聖女が立ち上がり 私の腕を引きバングルを両手で包み込んだ。
「この悲しみが癒されますように」
と祈りを捧げる。
他の聖女たちも順番にバングルに触れて祈る。
一通り祈り終わると、顔見知りの聖女同士やその家族もいるらしく
そちらこちらで歓談が始まった。
聖女の家族だろうか、
ふいに年若い女性の声が響いた。
「悪いのは全部その領主じゃない!
結婚前に清算しておかないとか邪推で嫉妬するとか!」
その言葉を聞いた数人の聖女がじっとそれぞれの夫を見ると
夫は所在なさそうに目を伏せた。
あっ『察し』
みんな色々有ったんだろうなぁ。
「そうね。」
声の主の母親らしい聖女が言う。
「人の罪を背負おうとするのもある意味傲慢なのよね。
彼女はそこを間違ったんだと思うわ。」
「それでも彼女の立場だったら私もそうなってたかもしれないわ。
若い頃だったらね。」
と言葉を続ける。
「今は違うの?」
と言う問いに
「あなたにも鍛えられたものね。」
と聖女に笑いかけられた娘と思しき年若い女性は
何か思い当たる節があるのか赤くなって口を閉じた。
『色々あってんやろなぁ』
せやろなぁ。
それでも今ここに居る家族はみな幸せそうに見える。
「ね」
と横に居たラリアさんに話しかけた。
「ラリアさんも家族を作ってもいいんじゃないですか?」
「そうよ。」
と後ろから声をかけてきたのは高齢の聖女だ。
「せっかく生まれてきたんだもの。
いろいろ経験して楽しんで
そして幸せにならなくては駄目よ。」
とラリアさんの背中に手を置く。
「そう、ですね。」
言いながらラリアさんは少し離れたところに居たマクシムに微笑みかけた。
視線に気づいたマクシムが近付いてきて
「なんだい?」
と話しかける。
ただ微笑むラリアさんに 首を傾げながらマクシムも微笑んだ。
二人の間に流れる空気感に
「あらあら」
と高齢の聖女が私に囁く。
「心配すること無かったわね。」
「そうですね。」
後はお若い二人に任せて…みたいな空気になってラリアさんとマクシムのそばから離れた。
残るはこの感情の持ち主を探すだけだ。
腕のバングルに意識を集中して感情の主を探索する。
光の道は精霊王国に続いていた。
ふと思い当たる。
感情をどこかに置き忘れて、ふわふわと生きているような女性を私は知っている。
光の道を辿って行くとその先にいたのは第一側妃だった。




