領主館
そんなこんなで多少の不安はありつつも出発の日がやって来て
マクシムとラリアさんと嘆きの森に向かう馬車に乗り込んだ。
途中立ち寄った妖精石の湖ではペンダント売りの少年の所に人だかりができていた。
吟遊詩人さんが広めてくれたのかもしれないな。
私の出番は無さそうだ。
さっと昼食を済ませると また馬車は走り出した。
道中、ラリアさんと二人きりになった隙にマクシムのことを聞いてみる。
「特別良くしてもらっていることは気付いてます。」
とラリアさんは言う。
まあマクシム顔に出るからな。
「ラリアさんはマクシム先生のことどう思う?」
と聞くと
「好き、ですよ。でも」
と言葉を止める。
でも?と聞き返す前にラリアさんは
「嘆きの森の聖女様はどうしてそうなってしまったんでしょう。」
と疑問を口にする。
「多分ですけど私たちは
恨みとかの感情でこの世界に縛られることはないと思うんです。
だから…」
その嘆きが負の感情に因るものでないとしたなら原因は愛情かもしれなくて
だから、関係を深めるのは怖い、ってことかな。
私が感じたのは自責の念みたいだった、と話すと
「そうですか…」
と考え込む。
ラリアさんはそのまま道中ずっと考え込んでいるようだった。
決行日の数日前に領主館に到着すると
大勢の使用人に指示をして客室を整えている王女の姿があった。
歴代聖女たちにも宿として提供するんだそうだ。
50年以上放置されていた領主館だけど
石造りのしっかりした建物で
少し修理しただけで問題なく使えるようになったという。
「勝手に手を入れて大丈夫なんですか?」
と聞くと
「買い取りました。」
と王女が言う。
「嘆きの森と領主館含むこの辺り一帯を買い取りました。」
王家が秘密裏に持っている商団が有って、その名前で買い取ったのだそう。
スケールの大きな話に二の句が継げないでいると
王女は声を落として囁いた。
「歴代の聖女様方が揃って祈りを捧げるんですよ。
何も起こらないわけないでしょう?」
えー
『あきんどの顔してるお!』
そして紙束を取り出して渡してくる。
吟遊詩人さんが調べた資料だそうだ。
当時を知る者はなかなか見つからず
なんとか話が聞けたのは家令や使用人の息子や娘で当事者には会えなかったと言う。
「領主の私的な部屋には手を入れて無いですよ。」
と王女が言う。
ああ私に読みとれってことね。
『ミズキの使い方は共有されてるんだお!』
四次元ポケットから取り出された気分。
とりあえず資料に目を通すと
領主が聖女と結婚したのは先代の指示であって
領主には当初から愛人がいたとある。
『ドロドロの愛憎劇が繰り広げられたんだお?』
うーんどうだろう。
だがしばらくして愛人と領主は旅行中に事故に遭い
愛人は亡くなり領主は重傷を負って
その怪我を聖女が癒してからは夫婦として穏やかに暮らしていた、そうだ。
『その事故は仕組まれたもので犯人は…!』
いやそんなサスペンス展開ないでしょ。
そしてある夜のこと
突然黒い靄が領主館を襲い、中にいた者たちは皆逃げ出した。
だが聖女の姿は見当たらず
靄が引いて、今の大きさに落ち着いてからも聖女の行方は知れなかった、かぁ
屋敷に入る扉に触れると当時の混乱した様子が流れ込んで来る。
でも屋敷の中に入れば あちこちに浮かび上がるのは穏やかな夫婦の姿。
最初はどうあれ、夫婦としていい関係を築いていたようだけど。
寝室に入って擦り切れて埃をかぶったベッドに触れてみる。
うなされる領主を覗き込む聖女の姿が視える。
聖女は何か恐ろしいものを見た叫びを押しとどめるように口を手で覆ったかと思うと
そのまま部屋を出て行った。
『うそっ、私のダンナヤバすぎ…!』
確かにそんな表情だった気もするけど。
うーん、それがこの屋敷での最後の聖女の姿かな。
嘆きの森の浄化が終わればもっとわかることがあるかな。
森の中には過去、狩猟小屋が有って
そのあたりが靄の中心になっているとの話だった。
部屋を抜け出した聖女が最期を迎えたのはその場所と考えるのが自然だよね。




