マクシムの家
呼び出しの内容は嘆きの森の浄化の日程だった。
歴代の聖女たちからも協力するという返事が貰えていて
私もラリアさんと数日後に出発することになるそうだ。
アネッサ王女たちが現場ですでに準備を進めていて
集合場所は嘆きの森近くの元領主館だと言う。
王がマクシムに同行を打診すると
「聖女フローラリアが行くなら私も同行いたします。」
とマクシムは食い気味に答えていた。
国が用意した御者に扮した騎士付きの馬車が当日マクシム邸に迎えに来てくれるそうだ。
思ったより短時間で話は終わり
マクシムの邸に向かう。
「これなら夕食の時間に間に合うかな。」
と言うマクシムはどことなく楽しそうでやわらかな表情を見せる。
「何か特別な料理でもあるんですか?」
と聞くと、皆で一緒にする食事が楽しいのだという。
物心ついた時には母は仕事で忙しく、父は出歩いてばかり。
使用人との間には壁があり、マクシム少年はひとりの食事が常だったそうだ。
誰かと共に食事を摂るのは婚約者の家に招かれた時くらいだったと言う。
亡くなった婚約者との交流が心の拠り所だったのかもしれないな。
だから夢魔の庵ではあんなにボロボロだったのかな、なんて思う。
「最近は皆がずっとうちにいてくれたらなんて思ったりして
自分でもそんな感情に戸惑ってるよ。」
マクシムはぽつりと呟いた。
「せめて彼女だけでも」
『ん?』ん?
『ちょっと聞いた?奥さん!』
聞いた聞いた。
彼女って誰よ。
邸に着いたらすぐに分かった。
「おかえりぃ」
「おかえりなさい」
と声をかけるメンバーの中で
マクシムが一番嬉しそうな顔で返事をしたのはラリアさんが声をかけた時だったから。
『おやおや』あらあらまあまあ
でもどうだろう。
マクシムは婚約者さんを失った喪失感やら後悔やらを
相談女への憎悪に転化して自分を保っているようなきらいがあったから
新しい恋はすごく良いと思うんだけど
ラリアさんは…。
《この世界の人に特別な情を持ちたくないんです。》
そう言った時のラリアさんの
この世界に何も期待しない、諦めたような表情を私は覚えてる。
食事の前にラリアさんに嘆きの森の浄化への協力をお願いすると
「もちろん行きます。でも」
とラリアさんは言葉を止めて少し考えてから
「残った皆さんがちょっと心配です。」
と言う。
確かに今の学校の状態で3人だけにするのは心配かも。
食事の準備が整ったとメイドさんが呼びに来て
とりあえず食堂に向かった。
皆で囲む食卓は
学校での武勇伝やら授業の疑問点の質問とか
わいわいとにぎやかで
食事が終わっても話は尽きない。
考えたら魔法研究部員はみな家族との縁が薄い。
この穏やかで温かい時間をそれぞれが楽しんでいるように見えた。
数日後に国の仕事で3人が出かける旨を皆に話すと
「先生居なくてもここに泊まってていいのぉ?」
とルルナが聞く。
「もちろん。逆に留守を守ってもらうお礼をしたいくらいだよ。」
とマクシムが皆を笑わせた。
でも皆心の底では3人の不在に不安を覚えているようだった。
食後の団欒も終わり私に宛がわれた個室に案内される。
マクシムの邸は本当に広くて、男女はフロアごと分かれていて
浴場も男女別にあるのだと言う。
個室のシャワールームも有って、男女の体を行き来するようになってからは
人との入浴が憚られる私には有難かった。
『これじゃ混浴イベントも寝ぼけて部屋を間違えちゃったイベントも
寝起きにドッキリも一切起こりようがないお!』
とだお君が悲痛な声を上げた。
どうどう。




