弟
翌日現れた第四側妃の弟は側妃と同じ黒髪に淡い褐色の瞳の
その身に纏う落ち着いた空気感も ほっそりとした体躯も
側妃に似ているのだろうと思わせる人だった。
まず墓に花を供えてから部屋の中を少し見たいという。
そしてこの瀟洒な部屋の雰囲気にそぐわない無骨な小物入れに目を止めた。
「これは私が姉にと作ったもので」
言いながら飾りに見えた金具をいくつか引き抜いていく。
「二重底になっていて」
と取り出したのはいくつかの手紙だった。
自分宛ての手紙を読んだ弟さんが言う。
「姉は生来体が弱く、長くは生きられないだろうと言われていました。
子を成せばそれこそ命に関わるだろうと。」
「陛下は御子を望んだのは側妃様だったとおっしゃっていました。」
「ええ、存じております。
陛下を責めるつもりは全くございません。逆です。」
「と言いますと?」
「姉の死に陛下がお心を痛めることはないとお伝えくださればと思いまして。」
と、また手紙に目を落とした。
「自分はどのみち長くは生きられない。
自分の命と引き換えにしても子供を産みたいと。
自分の我儘だから許して欲しいとあります。」
「きっと少しでも長く陛下のお心に残りたかったのだと思います。
子供が無事産まれて育って、その面影に自分を見つけてくれればと。」
そしてふっと笑いをもらす。
「私宛の手紙なのに陛下のことばかりです。」
「ままならない人生だったけれど
ここに来れたのは神様からご褒美を貰ったようだと。
姉は確かに幸せだったんですね。」
昨日感じたごほうびと言う言葉は側妃の思いだったんだな。
見ると王宛の手紙と生まれてくる子供宛の手紙もあった。
子供宛の手紙は年齢を指定して何通かある。
その下には日記帳らしきものもあった。
それをパラパラとめくった弟さんはまた笑いをもらす。
「我が姉ながら薄情にも思います。
陛下のことばかりですよ。」
弟さんは自分宛ての手紙だけ手元に残して他のものは小物入れに戻してまた組み立てる。
「このことは陛下に折を見てお伝えください。」
と頼まれた。
『王宛ての手紙は今持って行ってもいいんじゃ?』
いやきっと 王にはこの宮でしか見せない顔があると思うよ。
だからここに置いとく方がきっと正解。
弟さんを見送って報告すれば今日の仕事は終わり。
「後で伝えたいことがあります。」
と小声で言って王の執務室をでる。
『後で?』
うん、後で。
ここで伝えたらきっと泣いちゃうよ。
周りが困るでしょ。
『オッサンの涙なんてみたくないお!』
そうそう。
だけどその日のうちに私室に来た王に第四側妃の宮まで連れていかれて
廊下でオッサン泣きを聞かされることになったのだった。




