アリーの過去
食事の後に行きたいところと聞かれて、メガネ屋さんに案内してもらう。
なるべくフレームの太いメガネを選んで購入する。
「目が悪いわけでもないのに変装でもするのかい?」
と聞くアリーになんとなく気分を変えたくてと答える。
前世で美人の友達がナンパ除けにメガネをしていたのを思い出したのだ。
〈一部のフェチを除けばメガネ効果は絶大よ〉
メガネをしても美人は美人だと思ったけど、実際声を掛けられる確率は減っていた。
そのままメガネを掛けて町を歩けば、女性に見つめられる回数は減ったように思う。
「もうちょっと時間あるかな。僕のとっておきの場所に案内するよ」
アリーに連れられて来たのは王都が一望できる小高い丘の上だった。
「僕は弱小貴族の三男って話したけど、実は母の子じゃないんだ。」
突然の告白に驚く。
「この国は離婚の罰則が厳しいって話したろ?
だから結婚せずに愛人を作る貴族も多いんだよ。抜け道みたいなもんだね。
もちろん道義的にも認められない行いだけどね。
僕も戸籍上は母の実子ってことになってるんだ。」
「母は良くしてくれたけど、事実を知ってからは家に居辛くてね。
家を抜け出してはよくここで町を眺めていたんだ。」
アリーは噛み締めるように言う。
「夕陽が落ちてきて、帰りたい気持ちが勝つまでずっとここにいたんだ。
帰れば母も兄たちも大げさに迎えてくれたけどね。」
複雑な家庭だろうけど、アリーの性格や話を聞く限り、悪い環境じゃ無かったように思う。
「ごめん。ここに来ると感傷的になっちゃうな。
いい眺めだから案内したかっただけなのに。」
「いや」
「前に君が聞いたろ?母は今幸せなのかって。
僕にはわからない。
夫が余所で作ってきた子供を育てなきゃいけない苦しみも
そうまでして育てた子供が実の母に会いたいなんて言い出した時の衝撃も。
考えようとしなかったんだ。」
アリーの言葉には、深い悔恨が見て取れた。
「私が君の母上って聞いた時浮かんだ人は誰だい?」
「もちろん育ててくれた母だ。」
「だったらその母上が君の本当の母だろう。
母上が幸せになるようこれから努力したらいいんだよ。」
「だが母との関係はもう拗れてしまっているんだ。」
「アリー、よく考えて。人の命には限りがある。
拗れたままでも別れは必ず訪れるんだよ。それでいいのかい?」
私に言えるのはこれくらいかな。
黙り込んだアリーと一緒に夕陽をみる。
『アリー 君の胸に落ちた夕陽の熱さを僕は知らない』
ん?
『燃え尽きた夕陽が残した影を僕は知らない』
んん??
『ただ今は、この穏やかな夕暮れが君の心を癒してくれることを願う』
いきなりどうした?
『おお風よ 大地の精霊よ』
いやもういいって。どうしたの?
『僕は目覚めたんだ。僕の紡ぐ言葉がこの世界を彩る喜びに。』
ああ、だお調が嫌われるって自覚したわけね。
だからってポエマー方向に舵を切らなくても。




