閑話 まっさあじ
「お前が恋しいそうだぞ。」
と言う王に連れられて第三側妃の宮に行く。
「でもお前、最低一年は聖女の役が有るんだからな。」
と変な釘を刺された。
「じゃ一晩お貸しいただきますね。」
と私の手を取って微笑む側妃に
「例の件は頼んだぞ。」
と言葉を残して王は宮を出て行った。
『なんか政治的に利用されてるお』
うん。なんかの取引に使われたみたいだな。
「ほら早く早くぅ!」
と私を引っ張った側妃はソファに俯せに寝転んだ。
『やれやれ。とんだ欲しがりさんだお。』
まあマッサージってクセになるよね。
マッサージをしていると浅黒い肌の従者の視線を感じる。
あ、いいこと考えた。
従者を呼んでマッサージを教える。
女性相手だから力は控えめに、出来れば神聖力を流す方に主軸を置きたい。
「こうやって神聖力を注ぎ込むんだ。」
と言うと
「しんせいりょく?」
と、従者は首を傾げる。
マクシムがラリアさんの神聖力を誘導した時みたいに
従者の手に私の手を重ねて流してみる。
「わかる?」
従者はただ首を傾げた。
魔力を持たない人には難しいかな。
『神聖力=愛なんだお!』
あ、なるほど。それなら
「側妃様に対する気持ちを込める感じでやってみて。」
と言うと従者は真剣な顔をして指を当てた。
あ、流れてる。
「あっ」
と側妃が声を上げた。
「違いがわかりますか?」
と聞くと
「ええ。優しく染み込むような感じがするわ。」
と言う。
確かに私の注いだ神聖力と違って、側妃の体に即座に馴染むように視える。
「さすがだな。」
と呟くと従者が答える。
「ああ。主を想う気持ちなら誰にも負けない。」
その言葉に側妃の耳が赤く染まったのを私は見逃さなかった。
そのうち例のツボも教えてやろう。
◇◇ 従者視点 ◇◇
国王が連れてきた男にまっさあじと言うものを教わることになった。
前の賭けのあと、事あるごとに主が
あの子また来てくれないかしらと言うのを苦々しい思いで聞いていたけれど
教えてくれるというなら好都合だ。
そして教わるからには礼儀を尽くそう。
「師匠」と呼ぶと照れていたけれど思いのほか丁寧に教えてくれる。
師匠にはツボと言う、体に響く場所が見えるらしいが俺には見えないので
紙を取り出して書き付けていく。
「字は書けるんだっけ?」
と師匠が聞く。
「ああ、最初の主人に教わったんだ。」
と答えると
主が聞きたがるので子供の頃の話をすることになった。
もうもとの家族のことはそれほど思い出せない。
俺が生まれたのは何家族かが一つ所に身を寄せ合って暮らしているような山間の集落だった。
子供は沢山いたし、みんな山を駆け回って勝手に遊んでいた。
帰って来なくなる子供も多かったから、俺が消えても誰も気にしてないんじゃないかな。
山の神様が気に入った子を連れて行くって聞かされていたし、俺もそう信じていた。
今思えば俺みたいに攫われた子もいたのかもしれないな。
人買いに捕まって 連れてこられたのは大きな屋敷だった。
どんな目に合うのかと怯えていたけれど主人は優しい女性だった。
師匠には前に話したけれど文字や計算も教えてくれた。
文字をうまく書けなかった時は後ろから俺の体を包みこむようにして
手を取って教えてくれたし
一人で寝るのは寂しいでしょうと寝室に招き入れてくれる。
抱きしめられて目を覚ました朝は
甘い香りと柔らかさに幸せな気持ちになった。
「へえ」
と師匠は興味なさそうに相槌を打った。
「そんな主人に売りに出されたんだろ?」
と師匠が言う。
売りに出されたときは悲しかったけれど
主人はすごく辛そうに「あなたのためなの」って言っていた。
「それは嘘だと思うよ。」
と師匠は言うけど、もし嘘でもそれは優しい噓なんだと思う。
「やさしい? やらしいの間違いでしょ。」
と言う師匠は最初の主人が嫌いみたいだ。
優しい方だったのに上手く伝わらない。
「いや、そのやらしさはしっかり伝わってるよ。」
と師匠は言う。
師匠の言葉遊びは俺には理解できない。
ご褒美にいただけるハチミツは本当においしかった。
師匠は大人になったら肌に垂らす必要はないというけれど
スプーンですくって食べてみたハチミツはただ甘ったるいだけで
それほどおいしく感じなかった。
自分の手に落として舐めてみたけど同じこと。
やっぱり女性の肌に落としたのを舐め取るのが最高の食べ方なんじゃないだろうか。
ソファに俯せになっている主の露わになったうなじを見て思う。
あの金色を主の肌に落としたら…
「ん?どうした?顔が赤いぞ」
と師匠が俺を見て言った。
「い、いや」
なんだろう 主の肌に垂らした後を想像したら
「大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?!」
師匠が大きな声を上げると主も身を起こして振り向いた。
「やだほんと!熱があるんじゃない?」
主が俺の額に手を伸ばす。
「うーん わからないわね」
主が俺の顔を両手で挟み自分の顔を近づけてくる。
「お、おい!」
師匠の声が遠くなっていった。




