国境の町へ
王子を乗せた船が見えなくなるまで見送ってから国境の町に向かう。
王子の居なくなった馬車の中で王女の側近たちは饒舌になった。
「不思議な方でしたねえ。」
緊張から解き放たれたように姿勢を崩しながら女性が言った。
「いやあ、あの無言の時間はきつかったわー」
と男性も座席にだらしなく寄りかかった。
「お腹鳴りそうで気が気じゃなかったわよ。」
と取り出した袋から菓子を摘まみながら女性が言うと男性も同じ袋から菓子を摘まんだ。
何となく距離が近い二人だ。
「お二人は仲がよろしいんですね。」
と言うと二人は顔を見合わせて
「俺たち結婚するんだ。」
と言う。
『フラグ!』
いや、まだ大丈夫だ。キーワードが揃ってない。
『この任務が終わったら…』
待て待て。
「それはおめでとうございます。
もう式の予定もお決まりなんですか?」
と聞いてみると、二人は複雑な表情を見せた。
「いや」
と男性が言ってそのまま黙り込むと女性の方が言葉を続けた。
「あっちの二人が結婚してからかな。」
『フラグ回避!』
あっちの二人とは王女のもう一組の側近で
彼らは幼いころからの婚約者同士なのだと言う。
王女も含め皆 貴族学院の同級生で、あっちの二人が首席カップル
こっちの二人は次席カップルなんて呼ばれていたんだと話す。
首席カップルの男性は由緒正しい大貴族の嫡男で、結婚したら側近は辞して
爵位を譲り受け領地経営に本腰を入れる予定なのだそうだ。
「だから多分姫様の婚姻を待ってるんじゃないかな。」
対して自分たちは継ぐものは何も無い次男と末子だと笑う。
「それでも姫様の相手次第で今後のことが決まるから結婚はまだ先かな。」
と話した。
国境の町で王女たちと合流する。
交渉カードである結界魔方陣を刻んだ石柱が何本も用意されている。
一番大きな石柱が馬車に乗せられ、他の石柱は追加交渉や他国との交渉用に準備中とのことだ。
馬車に乗せられた石柱の魔方陣は下書きだけで、交渉後魔力を込めるパフォーマンスも予定されているんだそう。
大方の準備が整い明日は神聖国に入国予定、今夜は領主の館に泊まるんだそうだ。
こっそりとミヤに変身させられて領主の館に向かうことになった。
領主を交えた晩餐が終わり会議室のような部屋に集まり最終的な打ち合わせを行う。
王女と側近四人の他にいつかの吟遊詩人さんがいた。
やっぱり王家と通じていたんだな。
全員同級生なんだと紹介されたあと、神聖国との交渉がうまくいかなかった場合の対処の話になった。
最悪パターンは強硬手段を取られてミヤが塔に閉じ込められた場合。
何としてでも脱出はさせるがその後の大衆操作のために詩人さんが呼ばれたそうだ。
「実はミヤは精霊界から遊びに来ていた精霊の姫で
自由な精霊は閉じ込められたことに絶望し精霊界に帰ってしまったのです。」
と、王女が芝居がかった口調で言った。
閉じ込めた神聖国を悪者にして今後の交渉に繋げるのだそうだ。
他にも何パターンか交渉の行方を仮定した話を聞いて、後は相手の出方次第となったところで
話は同級生の思い出話に移っていった。
なんとなく疎外感を覚えてそっと離れた席に移動すると、側近さんたちもぽつりぽつり移動してきて、元の席には王女と詩人さん二人きりになった。
二人の話は弾んでいるようで、王女も楽しそうにしている。
二人を見やりながら次席女さんが私に囁いた。
「あの二人、いい雰囲気でしょ?」
次席男さんも呟く。
「歯がゆいよな。身分なんてさ。」
え、あの二人そうなんだ?
「それは言わないの!」
と首席女さんがたしなめる。
「姫様が必死に抑えてるんだ。
俺たちに出来るのは気づかない振りだけだ。」
と首席男さんも言った。
「えっと、陛下ならお許し下さると思いますけど」
『ホントの恋を知っている男だお!』
だよね。
「本人たちが諦めてるのよ。」
「姫様は国益を第一に考えてらっしゃるし
彼の方は自分じゃ足りないと思ってる。」
「家柄はいいけど嫡男じゃないしね。」
「功績を上げようと頑張ってたみたいだけどそろそろ時間切れかな。」
それぞれがふぅとため息をついた。




