五年後の約束
会議は終わり解散した部屋に、王の指名で第三王子と二人残される。
第三王子の処罰が決まり、辺境の地での魔獣討伐の任が与えられることになった、
と王が話し出す。
そこは王子の生母の実家だそうでイリヌスの件を知る者には処罰に
知らぬ者には里帰りに近いものに映ることになるらしい。
私は使節団より先に出発して王子を送って行くことになるそうだ。
神聖国の手前の国境の町で使節団と合流するらしい。
明日には出発するという。
「そういえばイリヌスはどうなったんですか?」
すっかり頭の外に出ていたけれど名前を聞いて思い出す。
王子が答えた。
「被害者の供述が出揃って夢見の塔から出された時にはもう
罪を問える状態じゃなかったよ。
ただ僕が前に立った時は跪いて僕の手を取ったと思ったら涙を流したんだ。
どういう涙なのかはわからなかったけど。」
「殿下も立ち会ったのですか?」
「うん。己の浅慮が招いた結果を見ておけって言われてね。」
王子は王の方に視線を遣って答えた。
その後イリヌスは罪人用の療養施設に送られたそうだ。
少しの沈黙のあと、王が徐に口を開いた。
「時にミズキ。
あの姿は歳を取るのか?」
瑞希の姿?えっとどうだろう。
『あくまでもベースは男のミズキだから瑞希に固定されない限り
変身する度にリセットされるお!』
「固定されない限り取らないみたいです。」
「では五年もすればまあまあ釣り合うな。」
と王は呟いた。
「お前五年後に誰も相手が居なかったら三番と結婚するのはどうだ?」
と王が言う。
「え?」
「深く考えなくていい。
五年後に相手が居なかったらの話だ。」
「五年も先の話なんて約束できませんよ。
その時になってみないと。」
と答えると
「三番では不服か?」
と言う。
「いえ、そんなことは。
私より殿下のお気持ちはどうなんです?」
男の私を知ってるわけだしなあ。
話を振られた王子は頬をほんのり上気させて答える。
「僕はミズキが結婚してくれるならすごくうれしい。
僕は…」
王子が続けようとした言葉を王が止めた。
「じゃ五年後独りだったら考える、でいいな?」
と私を見る王に答える。
「まあその程度でしたら。
あくまでも独りだったらその時考える、ですからね!」
王子に向き直って言葉を続ける。
「殿下も五年後に縛られて可能性を狭めることはしないで下さいね!」
出会いはどこに転がってるかわからないものね。
「本当は一年ごとにでも意思を確かめたいところなんだが」
と王が自分の顎をさすりながら言う。
「変な圧掛けないでくださいよ。」
と言うと
「じゃあ改めて。
五年後!ここで!意思を確認する!いいな?」
と語気を強める。
「ここでですか?」
何故場所指定?
「ああこの場所でだ!いいな!約束だぞ!?」
「え、ええ。」
「約束したからな!」
「はい」
謎の圧に気圧されて頷くと王は満足したように目を細めた。
明日の準備をと促され私室に戻る。
『簡単に約束して良かったんだお?』
ん?
五年も先の話だし王子だってその頃までにお相手が見つかるでしょ。
今の王子は《愛してる+》の効果がまだ続いてるんだよきっと。
『せやろか』
まあ決まったことじゃないし五年後独りだったら考える、なんだから
気にすることもないんじゃない?
『ほむ…』
なんか言いたげだな。
『何かこう術中に嵌ったような嫌な感じがあるんだお』
珍しく歯切れが悪いな。
危機感知も働かないし取り越し苦労ってやつじゃない?
王と二人残った部屋で、第三王子が王に訴える。
「もっとちゃんと気持ちを伝えたかったです。」
「そう焦るな。
まだ何の覚悟もないあいつを追い詰めたら逃げるだけだぞ。」
王はニヤリと笑った。
「それでも求婚は8割がた成功したようなものだ。」
「そうでしょうか。」
「約束は成された。
本人が意識しなくても頭の片隅にそれは存在し続ける。」
王は自分の頭をトントンと指で叩く。
「あいつはこれから誰かと付き合う機会がある度お前のことを考えるわけだ。
意識しようとしまいとそれは繰り返される。
五年も繰り返せば覚悟も固まる。」
「でも他に好きな人が出来てしまったら」
と言う王子に王は言う。
「その時は愛する者の幸せを願え。
そしてお前も五年後に囚われることはするなよ。
あいつとの約束だ。」
執務室に戻った王はひとり呟く。
「五年後か。」
制約魔法を結んだもの同士の間には特別な繋がりができる。
結んだ後は軽い口約束で有っても多少の強制力が働くことは誰にも話していない。
それは人の行動をコントロールするのに役に立つものだった。
五年後までにあの男を取り込むことが出来るだろうか、と考える。
「まあどう転ぼうとも五年後あの場所に現れるわけだ。」
くどいまでに念押しをした約束の強制力は強く働くはずだ。
その時王家の手を逃れているようなら捕まえる。
「見極めるのにちょうどいい期間かもしれんな。」




