従者
人の気配にふと目が覚めると
ソファの横に浅黒い肌の従者が立っている。
慌てて身を起こすと従者は隣の椅子に腰掛けた。
「主はずいぶんお前に心を開いているように見える。」
と従者が言う。
いつもの賭けの時には男に甘い言葉を囁いてその気にさせたところで
睡眠薬入りの酒を飲ませて一夜を凌ぐのがパターンだったそうだ。
「その主が先に寝るなんてありえない。」
と従者は言う。
「私とはそういう関係になることは無いってはっきりしてたからじゃないですか?」
と言うと従者は驚いたように私を見た。
「本気でその気が無いのか?あの方相手に?」
『そうよ!男としてどうなのよ!』
なんだろうこのダブスタ女みたいなキャラは。
だってここの側妃様はさ、男女間の愛情は望んでないように思えない?
もっとこうしっかりした愛情の土台と言うか、そういうものを求めているように思える。
「俺もここに来て10年以上になるが
未だに主との間に壁を感じる。」
と従者は話し始めた。
この国に吸収された生国の少数民族だった彼は
子供の頃人買に攫われたそうだ。
浅黒い肌に精悍な顔つきと筋肉質な体躯を持つ彼らは
生国の貴婦人に人気があったのだそう。
「最初の主は優しい方だった。」
と従者は言う。
「実の子供のように接してくれて文字や計算も教えてくださった。」
へえそんな聖人みたいな人もいるのかな。
「勉強は正直苦手だったが頑張ればご褒美もいただけた。」
『ご・ほ・う・び』
また変なこと考えてる?
「どんなご褒美を貰えたんですか?」
「ハチミツを」
この世界で蜂蜜は高級品だ。
ほら、ほんとに可愛がって貰ってたみたいじゃない。
「主人の肌に垂らして」
おっとぉ!
「それを舐め取…」
「それご褒美違う!」
『プレイや!』
言葉を遮られた従者は不思議そうな顔をする。
「肌に垂らす必要はないでしょ?」
と言うと
「ハチミツをそのまま食べるのは毒なんだろう?」
と答えた。
うーん色々歪ませられてるぅ!
でもここで矯正しても仕方ないかな。
「大人になれば毒じゃないんだよ。」
嘘はついてない。多分。
結局成人前にその主人からは売りに出されて
それからは男娼として生きてきたそうだ。
『ただのショタコンだったお!』
うん。でも言わないでおこう。
「それからの、俺を道具としてしか見ない女たちには悍ましささえ感じる。」
いや最初の主人も大概だと思うけど。
「ここに来てからは主に人として扱ってもらえて幸せだ。」
と従者は笑顔を見せた。
「あの女たちの相手をさせられたのは嫌だったけれど
そこで培った技術で主を満足させる自信ならある。」
と従者は言う。
「お、おう」
「だが主は俺を求めては下さらない。」
ああ、それはね。
「側妃様は男女の性愛の前に信頼とか親愛とかそういうのを求めてると思うんだ。」
従者は首を傾げる。
「しんらい…?しんあい…?」
やだこの人情緒が育って無いんじゃないの?
そのまま停止したような従者を放ってソファに横になった。
「あ、明日陛下が来たらちょっと驚かせる予定で
側妃様と仲良い振りをしますけど怒らないでくださいね。」
これは言っておかないとね。
その後もひとことふたこと会話があったような気もするけど
いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。




