14.変わったカンケイ
あれから祐真と涼香は、隙を見ては周囲にバレないようにしつつ、身体を重ね合うようになった。
この日も親のいない祐真の部屋で事を終えた後、祐真は気だるげに換気の為に窓を開け、制服を申し訳程度に着直した涼香がシュッシュッと消臭剤を振り撒く。
そこには色めいた空気なんてなかった。
涼香は、ビニール袋に使用済みのティッシュとゴムを詰めながら呟く。
「そういやさ、味付きのゴムってあるらしいね。いちごとかチョコ味の」
「なんだそれ? 匂いとか移ったりしないのかな?」
「あはは、どうなんだろ? で、気にならない?」
「気にはなるけど、どこに売ってんだよ、そんなもの」
「それだよねー。まさか通販で買うわけにもいかないしさ」
残念そうに肩を竦める涼香。
祐真は相変わらず好奇心旺盛なやつ、と苦笑を零す。
「ちなみに今使ってるのってどうしたんだ?」
「2駅離れた先にあるコンビニで、早朝に買ってきた。いっやー、心臓バクバクでさ、あの日は一気に目が覚めたよ」
「だろうな」
そう言って互いにくすくすと笑い合う。いつも通りに。
先日までのすれ違いや行き違いが解消された今、すっかり元の様子に戻っていた。
ゴミを分別して身支度を終えた涼香は、コームを取り出し「あ、結構絡まっちゃてるや」とぼやきながら髪を梳き、時折コンパクトミラーで確認する。
それは今までの涼香には見られない光景だった。
正直なところ、綺麗で可愛らしいとは思う。
しかし、今まで恋愛なんてバカみたいと言って、身だしなみに気に掛けてこなかったのだ。
わだかまりが解けた今、その姿でいる必要もない。
祐真にとって涼香は涼香なのだ。腐れ縁の親友の、妹。
そこは華やかで可愛らしくなり、肌を合わせるようになっても変わらない。
喉に小骨が引っ掛かったような違和感を覚えた祐真は、眉を寄せつつ訊ねた。
「なぁ涼香、その格好めんどくないのか?」
「あはは、確かに色々手間だねー」
「なら――」
苦笑しながら答える涼香。
すると涼香はニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべ、悪戯っぽく囁いた。
「けど、ゆーくんもどうせ抱くなら、少しでも可愛い女の方がいいでしょ?」
「っ!」
その点に関しては図星を刺され、ごくりと喉を鳴らす。祐真の反応に、満足そうに鼻を鳴らす涼香。
祐真は咄嗟に目を逸らしつつも、涼香の言葉にふと思うことがあった。
逆の立場ならどうだろう?
祐真自身、清潔さに気を付けてはいるものの、あまり冴えない自覚はあった。
真実、それはかつての苦い思い出で投げられた言葉の通りであろう。
ふと最近垢抜け、以前とは見違えた晃成や莉子の姿を思い返す。
そして目の前のすっかり綺麗になった涼香眺めながら訊ねる。
「なぁ、もし俺が髪を染めるとしたら、どんな色が良いと思う?」
「…………へ?」
突然の質問に、涼香は素っ頓狂な声を上げ、目を丸くしてマジマジと見つめてくる。
そこに言葉はなく、次第に居た堪れなくなっていく祐真。
すると涼香はにやりと口元を歪め、揶揄うような声を上げた。
「え、なになに、いきなりどうしたの? そんな色気づいたこと言っちゃってさ」
「……なんでもいいだろ」
「あはは、ごめんごめんって。うーん、そうだねー……」
茶化され、むくれる祐真。
涼香は宥めつつも腕を組み、考える。
「今ちょっと髪伸びてるし、重たい感じだよね。少し軽めのとかいいかも。ダークブラウンとか」
「へぇ?」
「うんうん、少なくともあたしはいいと思うよ」
「ふぅん、そっか」
そう言ってにこりと微笑む涼香。
色とかそのへんのことはわからないけれど、涼香の好みかどうかが重要だろう。
祐真はある決心を決め、涼香に笑みを返した。