昼休み
その後チャイムが鳴り、中野先生が教室に入ってくる。
「おーっす、全員いるかー? いるよなー、はい、お終い」
「先生! 適当すぎっすよ!」
いつものように浩二が野次を飛ばす。
これが、いつもの朝の光景だ。
中野先生は見た目も野暮ったいし、性格もめんどくさがり屋で有名だ。
でも、わりかし生徒には人気がある。
きっと、目線の高さを合わせてくれるからかもしれない。
「へいへい……じゃあ、確認するか……うん、欠席はなし。本日も、いじめもなしと」
「いや、いじめはなしってテキトーすぎですって」
「んだよ、仕方ねぇんだよ。昨今厳しくてなぁ、いちいち確認せんといかんらしい。まあ、お前に任せるわ」
「うわぁ……丸投げされた」
恒例のやり取りに、教室からクスクスと笑い声がする。
多分だけど……浩二がいるおかけで、俺もいじめには合ってない。
ほんと、俺なんかよりよっぽど良い奴だよなぁ。
ホームルームの時間が終わったが……。
俺のところには誰もこない。
高校生になってから優香のお世話があるから、《《仲》》のいい友達ができなかった。
別に、それを嫌だと思ったことはないけど……少し複雑ではあるかな。
昨日はクラスの共通ラインがあったから、ああして聞かれたりしたけど……。
流石に綾崎さん本人がいる教室で、聞いたりしてくる猛者はいないみたいだ。
「ほっ……良かった」
小さく、独り言がこぼれる。
休み時間は貴重な読書の時間だ。
家で家事や勉強があるし、優香がいるので集中して本を読むことは難しいから。
安心した俺は、いつものように読みかけのライトノベルを読んで過ごす。
そして昼休みになり、いつものように席を立とうとすると……。
「ん、どこにいくの?」
「はい?」
気がつくと、綾崎さんが近くに来ていた。
油断してた……休み時間も寄ってこないから、学校ではそういうものかと。
周りは静まり返り、様子を見てるし……。
「どこにいくのと聞いたわ」
「えっと……購買にパンを買いに」
「お弁当はないの?」
「まあ、そうだね」
「そう……ん」
なにやら考え込んでしまった。
その顔は無表情で、なにを考えているのかはさっぱりだ。
「あ、あのさ、パン売り切れちゃうからいくね」
ただでさえ人気だし、俺は鈍臭いから急がないと。
今のうちに、さっさと行こうと思ったら……。
急に、手を掴まれる。
「へっ?」
「それは困る——行こう」
「ちょっと!?」
手が引かれ、強引に教室から連れ出される!
誰かァァァ! 凡人の俺にもわかるように状況を説明してください!!
はぁ……ほんと、この子って……変な女の子だなぁ。
この短期間で、俺の彼女に対する印象は激変したのだった。