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一緒に歩く

 ……はて? 何故、ここに綾崎さんがいるのだろうか?


 目の前にはとてつもない美人さんがいる。


 朝にも関わらず、目元はぱっちり二重。


 長い黒髪はサラサラで、朝の光の中輝いて見える。


 ブレザーの上からでもわかる、そのスタイルの良さ。


 両手を前に揃えて鞄を持ち、姿勢良く立っている。


「聞こえてる?」


「本物……?」


「偽物がいるの? 何処? 」


「いや、そういうわけじゃなくて……」


 だ、だめだ……凡人の俺には理解が追いつかない。

 何がどうなって、今ここに綾崎さんがいるんだ?


「お兄ちゃん?」


「どうしたのー?」


「ちょっ!?」


 止めようとしたが、遅かった……。

 二人が、玄関までやってきてしまう。


「あらあら! まあまあ!」


「きれいひと! お兄ちゃんのこいびとぉ?」


「何処で覚えたんだ? さとしくんか? 優香に向かってそう言ったのか?」


「こわいかおー」


「ぐぬぬ……やはり、一度顔を合わせるべきか」


「ふふ……」


「えっ?」


 今、笑い声が聞こえたような……。


 振り返ると、そこには無表情な綾崎さんの姿が。


 なんだ、やっぱり気のせいか。


 笑ったところなんか、誰も見たことないもんな。


「あら! いけない! 遅刻しちゃうわ! お嬢さん、息子のことよろしくね! 息子! 帰ってきたらお話があります!」


「ちょっと!?」


 制止も虚しく、母さんは慌ただしく出て行った……。


 はぁ……完全に勘違いされてるなぁ。


「お兄ちゃん、わたしもほいくえん」


「おっと、そうだったね」


「ごめんなさい、邪魔をするつもりはなくて……」


「い、いや、平気だよ……少し待ってて。とりあえず、歩きながら話そうか」


「うん、待ってる」


 何これ? 夢? 可愛い女の子が、俺のこと待ってるとか。


 というか……学校まで一緒に行くってこと?





 ひとまず出かける準備をし、鍵をかけ……。


「お兄ちゃん、おててはー?」


「ああ、つなごうな」


「おねえちゃんはー?」


「お、おい」


「……繋いでも良いの?」


「いいよー!」


 結果的に、二人で優香を挟んで手をつなぐことに……。


「れっちゅごー!」


「ん、れっちゅごー」


「いや、真似しなくても良いから」


「そうなの? でも、楽しいかも……」


 その顔はぎこちないけど微笑んでるように見えた。


 ……へぇ、そんな風に笑えるんだ。


 不覚にも……可愛いと思ってしまった。




 その後、保育園まで歩いてくが……。


「あら……」

「まあ……」

「伊藤さんちのお子さんよね?」

「随分と美人さん連れて……」

「優香ちゃんもいるってことは、親公認ってこと?」


 普段は気さくに話しかけてくれるご近所さんが、今は遠巻きに眺めている。

 それこそ、俺が小学生の頃から知ってるような方達だ。

 優香はご機嫌で鼻歌を歌って、全く気づいてないし。


「うわぁ……明日から、どんな顔して歩けばいい?」


「何か変?」


「いや、見られてるから……」


「大丈夫、そのうちなくなるから」


「どういうこと?」


 俺が疑問を問いかけると……鼻歌を歌っていた優香が、手を強く握る。


「お兄ちゃん!」


「ん? どうした?」


「たのちいね! ママとパパみたい!」


「ママ……私が? でも、貴女には本当のママがいるわ。それに、私は子供を産んだことない」


「いや、真面目な顔して答えないでよ……ははっ!」


 だめだ……! 真面目な顔して変なこと言うから笑いが……。


「むふー! お兄ちゃんが変!」


「そうね、変な人ね」


「じゃあ、お姉ちゃん!」


「お姉ちゃん?」


「ママじゃなくてお姉ちゃん! ……だめ?」


「…………」


 綾崎さんが固まる。

 そりゃ、そうだよ。

 今日はたまたま来ただけなのに困るよね。


「こら、優香。無理を言っちゃだめだ。今日はたまたま来ただけなん」


「ううん、良い。お姉ちゃんって呼んで」


「はい?」


「ほんと!?」


「うん、明日もくるから」


「わぁーい!」


 そう言い、とても嬉しそうにはしゃぐ妹。


 さらに……物凄く自然に綾崎さんも——笑う。


 その表情から、俺は目を離すことが出来なかった……。

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