突撃
……理由はないのね。
「でも、理由がないのにやるの? ……ますます、訳がわからない」
人の行動原理として間違ってる。
人は理由なしに良いことはしない。
「うーん……気になる」
やっぱり、もうちょっと話してみたい。
今から追いかければ、間に合うかな?
どうせ、家に帰ってもすることないし。
「よし……行ってみよう」
何となく気になった私は、彼の後をつけてみた。
幸い、彼の足は速くないので、私でもついていくことができた。
「ここは……保育園?」
すると、彼が小さい女の子と出てくるのが見えた。
咄嗟に隠れた私は、その様子を観察する。
「……妹さんがいたのね……高校生がお迎え? お母さんやお父さんは?」
あの子も、私みたいに可愛がられてない?
でも、お兄ちゃんがいるなら良いよね。
「なるほど……だから急いでたのね」
それは悪いことしちゃった。
随分と一生懸命に走ってたし、ギリギリだったのかも。
「それなのに、私の話を聞いてくれて……本当にお人好しなのね」
損得勘定なく、優しいってこと?
そんな人、いるのかしら?
それじゃあ、損ばかりしちゃうわ。
「とりあえず……しばらく観察してみよう」
そうすれば、もっと彼のことがわかるはず。
まずは……何からしよう?
そうだ……そうしてみよっと。
◇
……眠い。
「ふぁ……起きなきゃ」
帰ってからラインの通知が凄かったし……。
どうなった!? 告白か!?とか。
「とりあえず、みんなには何でもないって説明したけど……」
それに昨日、遅くまで勉強してたからなぁ。
頭も良くなく、要領の悪い俺は、勉強時間に比べて成績が良くない。
こんなんじゃダメだってわかってる。
でも優香の世話もあるし、自分の時間だって……。
「いやいや……自分の要領が悪いことを、優香の所為にしちゃダメだよな」
すると……トタトタトタと足音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん! おはよー!」
「おはよう、優香」
そうだ、親父と約束したんだ。
俺に代わって、家族を守ってくれって。
そして、人に誇れる自分であれって。
朝ご飯を食べ終わると……。
ピンポンの音がする。
「あら、誰かしら?」
「うちのゴミ出しが散らかったとか?」
たまにカラスにやられて、ごみネットが散らかることがある。
そうすると、ご近所さんに迷惑がかかる。
「だったら大変だわ!」
「良いよ、俺が行くから。母さんは出かける準備して」
母さんに代わって、玄関のドアを開けると……。
「あの、何かあり……はれ?」
「おはようございます」
「お、おはようございます……?」
そこには、綾崎さんが立っていた……。