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家の事情

綾崎さんと別れた俺は、いつもより急いで保育園に向かう。


「やばい! 遅れる!」


保育園に預けていられる時間には、まだ余裕がある。

もしかしたら、友達と遊んでて平気かもしれない。

でも……もし待たせていたら可哀想だ。


「こ、こんな時、己の足の遅さにうんざりする……」







そして、何とかギリギリでいつもの時間に間に合った。


「はぁ……はぁ……」


「あら、和馬君」


俺に気づいた保育士の佐々木さんが、声をかけてくる。

二十代後半の方で、ほんわかと優しい空気感をまとってる人だ。


「ど、どうも、こんにちは……優香はどうしてますか?」


「今は男の子と遊んでいるわよ」


「何と……」


にいちゃんは何もないのに、妹は男と遊んでいるのか……。

いや、その前に確かめなくてはいけない。

今の俺は、親父の代わりなのだから。


「そいつは何処ですか?」


「はいはい、落ち着いて」


「離してください! 優香が!」


「ダメですよ、園児同士の交流に大人が入っちゃ」


「妹が毒牙にかかったらどうするんですか!?」


「はぁ……重症ね。でも、ダメなものはダメです」


その見た目に反して、保母さんの力は強い。


結局、俺は逃れられず……他の保母さんが優香を連れてくるまで拘束されるのだった。





優香の手を引いて、家へと帰る道を歩く。


「優香、楽しかったか?」


「あいっ! 今日はさとしくんと遊んだ!」


なるほど、さとしくんか……その名、覚えておこう。

まずは、俺に挨拶してもらわないと。


「クク、次にあった時を楽しみにしてるぜ」


「お兄ちゃんが変……いつもかも」


そのまま約束通りにコンビニに寄り、アイスを買ってあげる。


「食べてもいーい!?」


「ああ、いいぞ。家まで待ってたんじゃ溶けちゃうからな」


「わーい!」


繋いでない方の手で、一生懸命に棒アイスを舐めている。

……うん、今日もうちの妹は可愛い。





家に着き、手洗いうがいをすると……。


「……ねみゅい……」


「少し寝ていいぞ」


「うん……」


ソファーに寝かせると……一瞬で眠りに落ちる。


「さて、洗濯や掃除をしますか」


ありがたいことに一度寝た優香は、転がしても起きない。

今のうちに、家事を済ませるのがいつものパターンだ。





六時を過ぎると……母さんが帰ってくる。


「ただいまー!」


「ママっ!」


「あらー! お出迎えね!」


優香を抱きしめて、ぐるぐると回る。

相変わらず、ウチの母は元気というか……テンション高いよなぁ。


「お帰り、母さん。手も洗わずに暴れないでくれないかな」


「あら、いたのね」


「酷くない?」


「なに?貴方も抱きしめる?」


「るー?」


「……勘弁してよ。優香ならともかく、母さんなんか勘弁だ」


「何よー! こうしてやるー!」


「してやるー!」


「ちょっ!? やめい!」


結局、二人に抱きしめられ……全員で手洗いうがいをすることに。


親父……今日もうちの家族は元気です。





その後、優香の相手をしつつ、母さんが食事を作るのを待ち……。


三人で夕飯を食べる。


「おいちい!」


「ほら、ソースついてる」


「うー」


今日は優香が大好きハンバーグだ。

しかし、いつも口周りがベタベタになるのが難点かな。




食事を済ませたら風呂に入れ……優香を21時過ぎには寝室に連れて行く。


その後は、短いけど自分の時間だ。


「あらあら、すっかりお兄ちゃんね。というか、お父さんみたい」


「まあ……ね」


「本当にありがとね。いつも助かってるわ」


「親父に頼まれたし、優香は可愛いから良いよ」


「でも、二年生になってから友達とかと遊んでないでしょ? 」


「……仕方ないよ」


「やっぱり、仕事辞めた方が……」


「ダメだよ。これからお金かかるんだし」


うちの両親は孤児だったので、祖父母がいない。

故に頼れる人もいないし、お金事情もよくない。


「そうだけど……彼女とかも出来ないし」


「ほっといて! じゃあ、勉強してくる」


そうだ、遊んでる暇なんかない。


何としても国公立の大学に行かないと。

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