デートその三
いつだっけな……。
父さんに、なんで母さんと結婚したのか聞いたんだよなぁ。
二人は割と正反対で、母さんは明るいというかうるさいし……。
それにひきかえ、うちの父さんは割と寡黙な人だ。
だから、答えてくれるか心配だったけど……。
その時は、妙に熱が入ってたことを覚えている。
「いいか、和馬」
「うん」
「父さんが母さんと結婚した理由は……ドキドキするとか好きという前提があるが、最終的には一緒にいて楽だからだ」
「楽?」
「この言葉には二つの意味がある。一緒にいて楽しいの『楽』と、一緒にいて心地よいという意味の『楽』だ」
「二つの『楽』……」
「お前も中学生になったからな。もしお前が付き合いたいという女の子ができたら、その事を考えてみるといい。もちろん、学生だから好きだからってだけでもいい。だがそういう子と巡り会えたら、それはとても貴重な事だと覚えておくといい」
……ふぅ、中々面白い。
読み始め、章が変わったので、一度本をたたむ。
顔を上げると……目の前に綾崎さんの顔があった。
「ん、どう?」
「……」
「……無視?」
「ご、ごめん! えっと……」
み、見とれてしまった……!
あまりに目が綺麗だったものだから……。
「とりあえず、紅茶飲む?」
「あっ、いつの間に……うん、頂きます」
どうやら、気づかない間に置かれていたらしい。
それをゆっくりと口に含み……。
「……うん、美味しい。甘すぎなくていいね」
「ん、良かった。ここの美味しい。私、いつも一人でくる大切な場所」
「そ、そうなんだ。よ、良かったのかな? その、俺がきて……」
「ん、大切な友達だから」
……と、とりあえず喜んでおこう。
うん、俺だってまだわかってないし。
「そっか、ありがとう」
「……まだ、答えもらってない」
「……あっ、本の感想だったね。うん、面白いと思う。俺でも読みやすいっていうか……文が硬すぎない感じで」
「ん、こっちも。この間のライトノベルってやつより読みやすい。可愛い絵もあるけど、しっかりと情景描写があって」
「うん、それなら違和感なく読めるかなって……綾崎さんも?」
「ん……これなら君でも読んでくれるかなって」
「そ、そっか……」
「人に本を選んだのは初めて……ん、楽しい」
「お、俺も……」
「友達ってもっと違う事すると思ってた。だから、私には無理だと思ってた」
「あぁ……うん、わかる気がする」
別に他の遊びも楽しいけど、こういうのもいいよね。
……とりあえず、俺は綾崎さんといて楽しいってことか。
そして、言葉通り受け取るなら……綾崎さんも。




