送る
……だからどうしたって話だけどね。
綾崎さんは、俺のことそういう目では見てないし。
むしろ、そういう目で見てないから俺といれるんだと思うし。
今まで通り、なるべく普通に接しよう……できる限り。
「こら! 息子!」
「な、なに?」
「聞いてなかったの? 遅いから駅まで送って行きなさい。車で送って行こうかと思ったけど、駅前のマンションらしいから」
「い、いいです。伊藤君には、ただでさえご迷惑をかけて……」
「ううん、送っていくよ。もちろん、迷惑じゃなければね」
「……じゃあ、お願いします」
まあ、良いや。
とりあえず、綾崎さんを困らせないようにしないとね。
夜の夜道を、並んで歩く。
「今日はありがとね」
「……お礼を言うのは私……楽しかったから」
「そっか、ならよかった」
「ん……またきても良い?」
「うん、もちろん」
涼しい風が吹く中、静かな時間が過ぎていく……。
「……何も聞かないの?」
「なんのこと?」
「その……」
「いいんじゃない、別に」
「えっ?」
「話したくなったら話せば良いんじゃないかな。もちろん、俺でよければ話を聞くから」
泣いた理由を考えたけど、正確なことはわからない。
情けない話だけど、女の子の気持ちもわからない。
だったら、自分にできることをするだけだ。
「……どうして、そんなに優しくいられるの?」
「そんなことないけど……あえて言うなら、優しくされたら嬉しいからかな?」
「ん……どういう意味?」
「自分がされたら嬉しいことをしてるって感じかな……深く考えたことないけど」
これに関しては、俺も上手く答えることができない。
別に聖人君子ってわけでもないし、良い子ちゃんぶってるわけでもない。
「自分がされたら嬉しい……だから人に優しくする……」
「ごめんね、上手く言えなくて」
「ん、そんなことない。確かに……優しくされたら嬉しい。でも、みんながそうじゃない」
俺を見つめるその目は……とても悲しい色をしていた。
そして、その意味も……何となくわかる。
「そうかもね。良いことをしたから……優しくしたからといって、それが返ってくるわけでもないし」
「ん……見てると君は損ばかりしてる。私の代わりに水をあげたこともそう。あの時も、お迎えがあったんでしょ?」
「まあね。はは……あの時は走ったよ。でも、損はしてないかな」
「えっ?」
「その……君と友達になれたから」
あの行動を起こさなければ、こうして話すこともなかっただろうし。
優香が、あんなに喜ぶこともなかった。
「…………」
「あ、あれ? 綾崎さん?」
か、固まってしまったぞ?
やっぱり、くさかったかなぁ。
無表情だから、どういう反応か読みとれないや。
「……帰る!」
「えっ!? ちょっ!?」
「もう平気!」
そう言い、駅まで走っていく……。
確かに、もう駅は見えていた。
俺は立ち止まり、彼女が駅の中に入るのを確認し……。
「どういう反応だったんだ?」
ひかれた? 嬉しかった? くさかった?
悶々としながら……家路につくのだった。




