部屋
うちに到着したのは良いけど、良く良く考えてみたら……。
「すやぁ……えへへ……すぅ……」
「まあ、こうなるよね」
「ん……すごく可愛い」
この時間は、だいたいお昼寝してしまう。
つまり、遊ぶことは難しいってことだ。
「ど、どうするの? 起こす?」
「起こすのは可哀想」
「……綾崎さんって優しいね」
「……私が?」
「うん、そう思うよ」
「……そう」
見た目から、もっとクールな感じかと思ってた。
でも、よく見れば表情豊かだし、結構お喋りだったりする。
「もっと、教室でも話したら良いのに」
「……私の話、つまらないから」
「うーん、そうかなぁ。少なくとも……俺は楽しいけどね」
「変な人」
「酷くない!?」
「ふふ……ありがとう」
その後、お茶を飲んでいると……。
「君の部屋はどこにあるの?」
「……はい?」
「見たい」
「……何故ですかね?」
ま、まずい……全然かたしてないぞ。
いや、優香や母さんがいるから、変なものは出してないはず。
「伊藤君、いつも本読んでる。今日も、休み時間に読んでた」
「……見てたの?」
「ん、後ろの席だから」
今日読んでたのは、漫画だったかな。
「そ、そうなんだ。漫画とか読むの?」
「読まない。読むのは小説」
ああ、そういや有名だった。
なんか難しそうな本を読んでるらしいって。
「多分、綾崎さんが読むような本はないと思うけど……」
「それで良い。君がどんな人なのか知りたいから」
「……はぁ、わかったよ」
どうにも、その真剣な表情に押し切られてしまう。
ほんと、美人さんの目力って凄い。
二階に上がって、部屋の中に案内すると……。
綾崎さんがキョロキョロと辺りを見回す。
「ん、色々見てもいい?」
「うん、平気だよ」
「これはパソコン……」
「そうだね」
大丈夫! アレはパソコンのデータに入ってるし!
紙には残さないタイプです。
というか、優香がいるから危ないし。
「これは?」
「ゲーム機だね。もしかして、やったことない?」
「ない」
「そ、そっか」
……まじですか。
現代っ子でやったことないとか貴重だよね?
「ふんふん……知らない本ばかり」
「えっ!? ○ンピースとかも?」
「名前だけは聞いたことある」
まあ、そういう人もいるよね。
逆を言えば、俺なんか文芸書読まないし。
「ちなみに、どういう本を読んできたの?」
「経済学とか政治学とか、株の仕組みの本とか……」
「へっ? い、いや、そういうじゃなくて……」
「ん? あっ……料理の本とか?」
「いや、それも良いけどさ……小説みたいなのは?」
「夏目漱石は読んだ」
「ま、間違いではないね」
流石は綾崎さんだ。
学費なしの特待生だし、そういう本を読んできたからなのかも。
「……これは何?」
「えっと、ライトノベルってやつで……綾崎さんが読むような感じじゃないかも」
手に取ったのは、いわゆるラブコメの王道モノだった。
ざまぁとか寝取られとかでもなく、ファンタジーやハーレムでもないやつ。
ヒロインと主人公の純愛物で、女の子が積極的なやつだ。
「ん……君はこういうのが好き?」
「へっ? いや、そういうわけじゃ……」
「でも、いっぱいある」
たしかに、俺の本棚には青春ラブコメ的なものが多い。
しかも、この一年の間で。
多分、憧れみたいなものはあるのかもしれない。
どうしたって、高校生モノが多い。
でも、今の俺には……そんな時間も相手もいないし。
勉強と家族のことで精一杯だから……。
「うん……憧れはあるかも」
「そう……じゃあ、これ借りてもいい?」
「へっ? 別に良いけど……もっとファンタジーモノとか、もしくは漫画とかあるよ? そっちのが読みやすいんじゃない?」
「ん、これがいい」
そう言って、可愛い女の子が表紙のライトノベルを胸に抱きかかえる。
その姿は、なんだか可愛らしく見えた。




