約束
お昼ご飯を食べ終え……。
春風が吹く中、二人黙って空を見上げる。
……なんか、良いなぁ。
こう……女子ってずっと喋ってるイメージがあったから。
こうして黙ってても平気な子もいるんだね。
何より、気がつかないうちに……余裕を失くしてた気がする。
勉強のこと、優香のこと……もっと気楽にしないとダメだよね。
「ありがとね、綾崎さん」
「……何かした?」
「はは……うん、お弁当作ってくれたよ。あと、気が楽になったかも」
「ん……よくわからないけど……なら良い」
「何かあれば言ってね。俺にできることならお礼したいし」
「……お家に行きたい」
「……ふぁ!?」
ど、どういう意味!?
お、お、落ちつけ! 自分!
「また変な顔」
「……否定できないや。そ、それで、どういうことかな?」
「……優香ちゃんと遊ぶ」
危ない危ない……また、変な勘違いするところだった。
「そういうことね。うん、良いよ。きっと優香も喜ぶよ」
「じゃあ、今日の放課後いく」
「い、いや、それはちょっと……」
部屋の中とか掃除してないし……。
いやいや! 俺の部屋に入るわけないじゃん!
「顔赤い? 具合悪いの?」
「うわっ!?」
お、おでこに手が……!
「ん、どんどん熱くなってる……今日は我慢する」
「へ、平気だから! じゃ、じゃあ、放課後!」
あまりの恥ずかしさに、屋上から逃走する。
……午後の授業が集中できなかったのは言うまでもありません。
そして、放課後を迎え……。
俺は、あることに気がつく。
あれ? これって……一緒に帰るパターン?
それとも、一度家に帰ってから……。
「伊藤君、帰ろう」
「へっ?」
「一緒に帰る。今日、家に行くって約束した」
その瞬間——あれだけ騒がしかったクラスから音が消えた。
「ちょっと……誤解を招くよ!」
「ん、何も嘘ついてない。今日、伊藤君の家に行くって言った。君も、きて良いって……嘘だった?」
「嘘じゃないけど……ああ! もう! とりあえず行こう!」
このままでは、俺の平穏な日々が終わってしまうので……。
彼女の手を引いて、教室を飛び出すのだった。
◇
今日は、朝からおかしい。
昨日はあんまり寝れなかったし、遅くまで料理の本とか見てしまった。
男の人に料理作るのなんか初めてだったから。
やるからには、きちんとしたもの作りたい。
……あれ? そもそも、何で作ろうと思ったのだろう?
何とかいつも通りに起きて……台所に立つ。
「男の人の好きな具……唐揚げって書いてあった」
でも、野菜も必要。
量も、私より多くないと。
「結局……何で作ろうと思ったんだろう?」
昨日、伊藤君がパンを食べてて……。
「それじゃない……その後に、私のお弁当を美味しそうって……すごいねって褒めてくれたから?」
だから、食べて欲しいって思った?
「わからない……誰にも言われたことないから」
綺麗とか、可愛いとか、頭が良いとか……そういうのはあるけど。
「むぅ……難しい」
こういう時、誰に教えてもらえるんだろう?
「母親? 父親? ……どっちもいない」
あの二人に会わなくなって、もうすぐ一年くらい?
高校生になったから、義務教育は終わったらしい。
そしたら、二人は家から出て行った……私だけを残して。
「そもそも、会話らしい会話もしたことない」
物心ついた時には、父と母の間で会話をしてるのを見たことがない。
……見たのは、離婚という話し合いの時と、私をどうするかの時だけだった。
「……別に良い、今は関係ない」
もしくは……友達?
それも、いたことないからわからない。
みんなから、不気味だって避けられてたから。
「あれ? 伊藤君は……友達?」
……なんか、違う気がする。
でも、相談には乗ってくれるかな?
「あっ——早く作らないと」
伊藤君の面白い顔を思い出しながら、お弁当作りを始める。
すると……不思議と、暗い気持ちが消えていったような気がした。




