対比
その日の夕飯は、とても賑やかだ。
テーブルを囲んで、四人でカレーを食べる流れになったから。
「美味いっす! 弥生さん、相変わらず料理上手ですね」
「あら〜嬉しいわぁ。どんどん食べて良いからね」
「お兄ちゃん、カレーおいちい!」
「そっか、良かったね」
久々に遊びに来た浩二を、母さんが引き止めた。
相手の家に電話して、うちで食べさせてもいいかと。
相手の家族も浩二も、快く引き受けてくれた。
おかげで、優香が楽しそうだ。
……やっぱり、《《四人席が埋まってるからかもしれない》》。
俺だけじゃ、やっぱり寂しさは埋められないのかなぁ。
「そうそう! うちの子に、朝に女の子が訪ねてきて! これが凄い美人さんで!」
「ちょっ!?」
「ああ、知ってますよ。同じクラスの子なんで。でも、付き合ってるとかじゃないみたいっすね」
「あら、そうなの?」
「う、うん、もちろん」
「こいつ、変わってるでしょ? それで、興味を持たれたって感じですかね」
「そうなの……息子に春が来たと思ったのに」
浩二! 助かったよ!
母さんは残念そうだけど、これで質問責めされなくて済む……あれ?
でも、明日もくるって言ってたから……どうしよう?
◇
……今日はいっぱい話せた。
私と違って、彼は表情がコロコロ変わって面白い。
……楽しい?
「ん……私は楽しかった?」
男の子と話して楽しいと思ったのは初めてかもしれない。
というより、男の人は基本的に喋ってばかりだ。
自分のこととか、趣味とか、もしくは私の容姿を褒めるだけ。
私は話すの苦手だし、話しかけてる人はいつも一方的だから。
「伊藤君は、私の話を聞いてくれた……それが嬉しかった?」
……わからない。
こんな感覚、初めてかもしれないから。
そんなことを考えながら帰っていると……。
気がつくと、マンションの部屋の前に到着していた。
「ただいま」
私が鍵を開けて中に入っても、ただいまと言っても……。
返事が返ってくることはない。
この部屋で暮らしているのは、私一人だけだから。
それでもただいまというのは……何故だろう?
言ったところで、意味なんてない……非効率。
「……いつもは、こんなこと考えない」
彼と話したから? それとも、優香ちゃん?
「わからない……けど、知りたい」
この気持ちが何なのか……。
「そうだ、お弁当」
伊藤君はパンを食べていた。
あればかりじゃ健康に悪い。
洗面所の前で手を洗いつつ、メニューを考えていると……。
「ん……笑ってる?」
鏡の中の自分が……笑っていた。
自分でも気づかなかった変化だ。
やっぱり、彼は面白い。
私に、新しい発見を教えてくれる。
明日からも、観察してみよっと。




