友情
浩二に手を引かれ、そのまま教室出る。
すると、廊下でも……。
「正義のヒーローってか」
「ちげーよ、こいつ具合悪いみたいだし」
「そうなん? ああ、あいつら気づかなそーだな」
「まあ、あいつらも悪気があるわけじゃないけどな」
突っ込んでくる人達に軽口をたたき、ずんずんと進んでいく。
そして、そのまま……学校の外に出る。
「ふぅ……ここまでくれば良いか」
「浩二、ありがとう」
ああいっておけば、俺への心象も悪くなりにくい。
後は、俺が明日『昨日具合悪くて……』と言えば良いだけだ。
「なに、気にすんなよ。元はと言えば、俺が悪いしな」
「へっ?」
「朝、俺に任せとけって言ったろ? 全く、きちんと言ったはずなんだがなぁ」
「いやいや、浩二は悪くないよ。俺がはっきり言えないから……ごめん」
優香のお世話があるからとは言いたくない。
妹の面倒を見るのが嫌とか、恥ずかしいってことじゃなくて……。
それで『可哀想』のレッテルを貼られるのが嫌なんだ。
俺自身は、そんなこと思ってないのに。
「謝んなよ。俺とお前の仲じゃんか」
「……ありがとね」
「おうよ。ついてだ、たまにはお前んち行くとするか」
「……妹に手を出したらただじゃ済まないからね?」
「こわっ……おいおい、俺の守備範囲外だっての」
「優香が可愛くないと?」
「……ほんと、お前って妹のことになるとダメだな」
「……自覚はあるよ」
そんな会話をしつつ、保育園に向かうと……。
「あっ! コウジくんだぁ!」
「あらあら! 浩二君じゃない!」
妹も含め、保育士さんも浩二に近づく。
ほんと、どこに行っても人気者ってやつだよね。
「ちーっす、優香ちゃん。今日は俺がお迎えに来たぜ」
「わぁーい! 今日はすごいおっ! 朝はお姉ちゃんもいるし、帰りはコウジくんがいる!」
「お姉ちゃん……ああ、そういうことね。んじゃ、帰るとするか」
浩二が優香の手を握ろうとするので、それを遮って俺が手を握る。
「優香、帰るよ。そして、その男には近づいちゃダメだよ」
「おい? 今日、お前のピンチを救った友人なのだが?」
「それとこれとは話が別だよ」
「お兄ちゃん! わたし、今日はコウジくんとつなぐ!」
「……がーん」
「あははっ! ザマァみろ!」
ぐぬぬ……結局、イメケンがいいのか。
まあ、でも……こういう感じも、久々で楽しいかな。
その後、うちに行き……すぐに優香がお昼寝を始める。
「あらら……はしゃぎ過ぎたね」
「ふっ、我ながら罪作りな男だ」
「浩二?」
「わ、わかった! わかったから怖い顔すんなって!」
全く、しようがない奴……でも、まずはこれをしないと。
「浩二、今日は本当にありがとう。お陰で助かったよ」
「……おぅ」
「なに照れてんのさ?」
「いや……お前のそういうところ、俺はいいと思うぜ」
「ん?」
「恥ずかしげもなく、素直に言えるところだよ。お前のことお人好しとか馬鹿にする奴もいると思うが……まあ、そんなのは放っとけ。お前は、そのままでいてくれ」
「浩二……」
浩二が、どうして俺と仲良くしてくれるのかはわからない。
でも、どうでも良いや。
浩二が、俺にとって大事な友達だってことさえわかってれば。
「……らしくないこと言ったな。んで、結局どうなってるんだ?」
「えっと……」
昨日から起きた出来事を、詳しく伝えると……。
「なるほどねぇ……こりゃ、春が来たか?」
「へっ?」
「いや、互いに鈍そうだな……下手に動かない方がいいか?」
なにやら、浩二が小声で呟いている。
「どういうこと?」
「いいや、何でもない。まあ、嫌なわけじゃないんだろ?」
「そ、そりゃ、もちろん……俺だって、一応男だし」
「ははっ! 素直でよろしい! じゃあ、気がすむまで付き合ってやれよ。優香ちゃんも懐いてんだろ?」
「でも、学校で……」
「言いたい奴には言わせとけ。どうせ、ただの嫉妬と野次だ。何かあったら、俺に言え」
「……ありがとう」
ほんと……何で浩二が、こんなに良くしてくれるかはわからない。
でも、今度浩二が困ってたら、何か力になれるといいな。




