第9話 中級冒険者は悪魔崇拝者の計画を探る
よろしくお願いします。
※ここから4話ほどシリアス展開です。
俺が住む都市『リューベン』は今朝から少し騒がしい。
「悪魔崇拝者たちからのメッセージが街中に書かれていた」
クラン『紅の砦』本部、その団長室で俺はメイナさんと向かい合っていた
「俺も見ましたよ。南地区のあちこちに落書きされていましたからね」
朝起きたらいつの間にか街の幾つかの箇所に、赤いペンキで悪魔崇拝者メッセージが残されていた。内容はこうだ。
『貴様達の魂は堕落した。次の満月の夜、悪魔界の扉が開かれる。穢れ魂をせめての慰めとして捧げよ。魂の証明はここに為されるであろう。』
メッセージと一緒に謎のマークも残されていた。翼を生やした犬の紋様。
「この紋様は上級悪魔の紋様ですね。召喚と使役に大量の魂を必要とする危険な悪魔です」
「……奴らは次の満月の夜にその悪魔を召喚するつもりか?」
「だと思いますよ。満月なら悪魔を呼び寄せやすいですから」
俺も依頼されていたサキュバス召喚は満月、次の一ヶ月後にする予定だった。
「そんな危険な悪魔を呼び出す目的は何だと思う?」
「あー。俺の予想ですけど、悪魔召喚を失敗させることが奴らの狙いだと思います」
「失敗させる?」
「奴らが掲げる命題『魂の証明』というものがあります。『魂に価値はあるのか?』という問いに答えを出そうとしている。奴らの中にも、魂に価値があると主張する『肯定派』と価値はないと主張をする『否定派』が存在します。
今回の騒動はたぶん否定派でしょう。スラウズは否定派が好む悪魔ですから」
悪魔召喚には対価が必要となる。その対価が不足していれば契約は出来ず、悪魔召喚は失敗する。
「否定派はスラウズ召喚のために、多くの住民を生贄に出そうとするでしょう。しかし幾ら犠牲にしてもスラウズは満足せず、召喚は失敗すると予測している。真偽はどうであれ、その状況を実現させれば『悪魔が満足しないのは、魂に価値がないから』と証明ができる」
「なるほど……。胸糞悪い話だね」
「全くです」
気分の良い話ではない。
「……それでだ。この件でちょっと面倒なことが起きている」
メイナさんはタバコをふかしながら続ける。
「先ほど領主から冒険者ギルドへと通達が来てな。我々『紅の砦』はは南地区の警戒任務を命じられた」
彼女は不機嫌そうに唸り、話を続けた。
「南地区に悪魔崇拝者たちがいると考えての配置だそうだ。しかし私の考えは違う。ダンジョン解放から、脱走した盗賊達の足取りを探っていたところ北西地区――貴族たちが住む街に逃げ込んだと情報を掴んだ。貴族の中に盗賊を匿う悪魔崇拝者がいると私は睨んでいた。しかし今回の命令で南地区の警戒に当たることになった。迂闊に動けん」
「北西地区の警備は?」
「貴族の私兵団が当たる。北西地区へ渡る通路は私兵団によって封鎖されていたよ。余計な邪魔が入らないようにな」
メイナさんは忌々しそうに言う。
確かに厄介な状況だ。
悪魔崇拝者の親玉は貴族の中にいる。その奴は邪魔しそうな『紅の砦』の冒険者たちを南地区から動けなくした。そして私兵団を警備の名目で動かし、自分のテリトリーである北西地区に邪魔者が入り込まないようにする。
満月の夜まで邪魔が入らないようにするのだ。
「メイナさんはどうするんです?」
「……今回の騒動で住民は不安がっている。何よりこんな舐められた真似されるのも我慢できない。黒幕は必ず突き止めてやるさ」
「なるほど。それで? 俺は何すれば良いんです?」
「……手伝ってくれるのか?」
「街が危険に晒されるのに何もしない訳にいかないでしょう。俺も手を貸しますよ。ただまぁ、貴族相手に本格的に事を構えるのは御免ですし……適当なところで退散させてもらいますけどね」
貴族を罪に問うとなれば、より面倒な手続きやら駆け引きやらが必要だ。後ろ盾も権力もない俺がその場にいても邪魔だろう。
ただ悪魔召喚を防ぐための手伝いならできるはずだ。
「感謝する。ギークには悪魔召喚を防ぐために動いて欲しい」
「了解です。ただ問題もあります。冒険者ギルド内にもスパイはいるでしょうし、俺の存在も気取られている。『紅の砦』が俺に協力を頼むことも相手は読んでいるんじゃないですかね? たぶん近いうちに俺にも別の依頼、キャラバンの護衛とか街を離れる依頼が割り振られる」
自慢じゃないが、この街で一番悪魔に詳しい冒険者は俺だ。悪魔召喚を邪魔されないように俺への対策も取ってくるだろう。
おそらく緊急度の高い(と偽装された)依頼がねじ込まれ、俺も身動きができなくなってしまうだろう。断れば俺の信頼にも傷がつくよう仕組まれるはずだ。嘘だって分かっても断れないな。
メイナさんは頷く。
「だろうな。だから前もって『今回の騒動の調査』をアンタに依頼する。優先度が高い依頼としてな。他の任務を受けている暇はない状況にする」
「いやいや。新規の依頼として発注するなら、ギルドに申請の必要が出てきてしまいます。それこそギルドの審査では難癖付けられて時間がかかりますよ」
「違う。アンタが受けている既存の依頼に『追加業務』としてねじ込む」
「追加業務……」
ちょうどそこで扉が開き、一人の人間の男性が入ってきた。思わず「ゲェ」という言葉が出てしまう。
「ギーク殿よ。貴殿に追加の依頼を頼みたいのだよ。今回の悪魔騒動を調査し、下手人を見つけて欲しい」
『不敗』のオーラム。英雄と称される上級冒険者。『サキュバスに馬鹿にして欲しい』と俺に依頼してきた変態。
その人が立っていた。
「追加理由は何でしょうかね?」
「今回の悪魔騒動のせいで悪魔のイメージが悪くなる。そんな中ではサキュバスを召喚してしまったら、吾輩の評判も悪くなってしまうからな」
「……いや他の人はアンタがサキュバスを召喚すること知らないんじゃ?」
「貴殿が依頼を引き受けてくれたことが嬉しくて酒場で喋ってしまった」
「もうアンタの評判は底値ですよ」
「ともかくだ。当初の依頼『サキュバスを召喚する』ことを心置きなく達成するためにも、貴殿には『今回の悪魔騒動の調査』を依頼に追加したい」
……屁理屈だが依頼の追加理由としての体は成している。依頼の内容を追加するだけなら、新規の依頼を申請するよりよっぽど書類処理は早く済む。また依頼主は『不敗』のオーラムだ。ギルド側も難癖付けることはできずに受理されるだろう。
メイナさんはタバコの火を消して言う。
「ギーク。悪魔崇拝者がどこで悪魔召喚を実施するのか。アンタにはそこを見つけて欲しい」
「了解です」
「私は貴族側の黒幕を見つける。表だって動けないがやりようは幾らでもある……一週間で突き止めてみせるさ」
「分かりました。気を付けて」
「アンタもね」
そこでオーラムが口を開いた。
「吾輩はどうしようか?」
「目立たないように過ごしていてください」
「承知した」
こうしてメイナさんは悪魔崇拝者の素性を、俺は悪魔召喚をする場所を調査することになった。
上級冒険者からの依頼ということで動きやすく色んな場所を探ることができた。
一週間後、俺は当たりを見つけた。
地下水道を俺は歩いている。
水道の管理局に問い合わせて昔の地図を見つけた。(『不敗』のオーラムからの依頼に関することだと伝えれば快く見せてくれた)。
地図から随分と昔に使われなくなった資材倉庫がある事が分かった。出入り口は塞がれているが、奥には十分なスペースがある。
俺はその場所に立つ。『火球』を出し足元を照らし壁を注意深く調べると、不自然なくぼみを見つけた。
試しに押してみると、壁がずずずと動く。
中は篝火が燃え明るかった。床には召喚陣が書かれてある。
そこに一人、いた。
知っている顔だった。
「こんな所で何をしているんですか、ドリーさん」
よく仕事を一緒にする冒険者仲間だった。
ドリーさんは振り返って俺を見つめる。驚き、焦り、恐怖、と表情が変わり、最後に諦めた様に笑った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
※ドリーは1話に出てきた人です。
分かりにくくて申し訳ございません。。
次回もシリアスです。
今後もよろしくお願いします。