第8話 中級冒険者に悪魔召喚の準備にとりかかる
よろしくお願いします。
※話があまり進まず申し訳ありません。
中級以上のモンスター召喚には王都の審査を通らなければならない。悪魔は基本的に中級以上なので、今回の依頼も同様に書類審査がある。例え「サキュバスに馬鹿にして欲しい」という変な理由でもだ。
結果として審査は通った。
嘘だろ。
書類審査が通った以上、本格的に悪魔召喚の準備が必要だった。
しかもオーラムの望みを叶えられる悪魔を探さなきゃならん。人の欲望が大好きな悪魔でも、「おっさんを馬鹿にしたい」なんて悪魔はそうそういないだろう。
『お客様の要望に応えられるサキュバスは、空いている子でも88体いますね』
嘘だろ。
俺の目の前にはしゃべる髑髏の模型が置いてある。
俺の魔力を通して、悪魔が住む魔界へと交信できるようになっている。
この髑髏には仲介屋の悪魔が憑依している。召喚主の要望に叶う悪魔を探し、悪魔側の要望も伝えてくれるのだ。
『最近はどこも暇していますからね。あっ、他の派閥所属のサキュバスにも聞いてみますか?』
「いや大丈夫。88体の中で俺が提示した対価で召喚に応じてくれるサキュバスはどれだけいる?」
『あー、そうですね…………ちょっと探してみるんで少しお時間をいただきますよ』
ディテーターは慌ただしく言葉をきる。
なんだろうな。前世では行ったことないから分からないけど、無料案内所の人とかこんな感じなのかな。前世では行ったことがないけど。
暫くすると《ディエーター》が戻ってくる気配があり、再び髑髏が動いた。
『今ですと《メスガキサキュバス道を極めし》サウシーがおすすめですよ』
「すげぇ異名きたな」
『依頼主である男性の似顔絵を見せたところ、こんな男性と遊びたかったとやる気も十分です』
「奇特なサキュバスもいるもんだ。召喚の対価は俺の魔力二ヶ月分を注いだ魔石で足りるか?」
『十分だと言っております『転生者』殿の魔力は我々にとってご馳走ですからな』
悪魔は人の魂を見分ける術に長けている。転生者の魂は他の人と違って、『色合い』みたいなものが違うらしい。
悪魔連中には俺が転生者だということはばれている。
転生した魂は悪魔にとって貴重であり、その魂から抽出された魔力は実に美味らしい。
ともかく、悪魔の取引では俺は良く自分の魔力を差し出している。魔力を蓄積できる魔石に、自分の魔力を蓄えて対価として差し出す。悪魔は悦んでくれるので、悪魔との取引がスムーズにいくことが多い。これも転生者特権かねぇ。
「あとは……仕事終わりに美味いボアの串焼きを食べたいそうです」
出張帰りのサラリーマンみたいなこと言っている。
「あー了解。機関に1日活動許可も申請しておく。美味いお店も探しておこう。間違っても他の人にちょっかい出さないでくれよ」
『問題ないようです。では私の方で仮契約が成立したとお伝えしましょう』
「ああ。召喚の準備ができ次第また連絡しよう」
俺はチラリとそばに置いていた秤を見る。揺れていた秤は綺麗な水平を保っていた。
俺が示す対価と悪魔がもたらす恩恵の釣り合いが取れた証だ。
『ギーク殿は契約の作法が分かっているのでやりやすいですよ。最近は無作法に我々を呼び出す連中が多いですからな』
「『悪魔崇拝』の連中か?」
『ええ。ロクな対価も用意せず我々を呼び出すもんですから困っておりますよ。人間の魂の価値がどーの、魂を証明するのどーのこーのと煩いですねぇ』
「……最近はまた活動が活発してきているからな。俺も注意しておこう」
『頼みますよ。あまり人間に失望したくないのでね……ではでは! また!』
と最後に怖い事を言い残してディエーターとの通信が途切れる。
ふぅ、と息を吐く。
人仕事を終えた俺に、使い魔のアグリが近づいてきた。
水が入ったグラスを差し出してくれる。
「お疲れ様です。ご主人。お水いります?」
「ありがと……」
「どうしたんです? 私の顔をじっと見つめて?」
「いやぁ別に」
アグリは中級悪魔である。
俺に回復魔法の才能がなかったこともあり、回復魔法を使用できる悪魔を使役することにした。回復魔法を使える魔術師とパーティーを組めば解決したかもしれないが、気楽なソロが良かったので悪魔を召喚することにしたのだ。
またアグリと契約した恩恵で俺も下級の回復魔法なら使えるようになっている。
契約の対価も無理なくこなせるものだった。
一つは『一ヶ月に一度、俺の三日分の魔力を渡すこと』。
魔力は無限ではない。一日に使える魔力は限りがあり、休息を取れば回復する。毎日少しずつ魔石に自身の魔力をこめて月末にアグリに渡すことにしている。
二つ目は『契約期間中は快適な人間生活を保障させること』。
野良の悪魔がこの世界で活動すれば直に討伐対象となってしまう。アグリは俺のサポート役として冒険者ギルド、ひいては王都に存在を認められているため、ある程度は自由に活動できているのだ。そのために俺は幾つもの申請書を書いたし、毎月の報告書やら何やらを提出している。俺の社会的立場が確かなものである必要もあるので、普段から社会的貢献度が高い任務をこなしている。
提示された対価は支払い続けているので、アグリは俺の使い魔として働いてくれている。
対価を支払い続ける限り、悪魔が契約者を裏切ることはない。
ただ、ふと思いついたことがあったので尋ねてみる。
「アグリは今の生活に不満はないのか? 不満があるのならお前の方から契約破棄しても良いが・・・・・・」
俺の提案にアグリは首を振った。
「ないですよー。ご主人を見ているのは楽しいですし」
「俺なんか見て楽しいか?」
「ええ。とても。私はご主人が好きですし、貴方がすることを見てみたいんです」
「・・・・・・・・・・・・」
契約を結ぶ時にも同じことを言われたが本当かねぇ。
「お、ご主人照れています?」
「照れてないが?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
※話がぶつ切りになってしまった感があり申し訳ありません。
次回から少しシリアスになります。